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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 合成開口レーダー報告書

 地震調査研究推進本部は、「今後の重点的調査観測について−活断層で発生する地震及び海溝型地震を対象とした重点的調査観測、活断層の今後の基盤的調査観測の進め方−」(平成17年8月30日)において、衛星を用いた合成開口レーダー(SAR)による面的な地殻変動観測に努めることを謳っています。平成18年1月にはSARを搭載した陸域観測技術衛星「だいち」(図1)が打ち上げられ、昼夜・天候を問わずに面的な地殻変動観測ができるようになりました。
 地震調査委員会では、地震活動評価の高度化のための衛星データの活用方策を検討するため、平成19年7月に衛星データ解析検討小委員会を設置し、審議を重ねてきました。これまでの検討結果をまとめ、平成23年10月に「合成開口レーダーによる地震活動に関連する地殻変動観測手法」報告書を作成し、公表しました。


 ひずみの蓄積過程、地震の破壊過程、余効現象のそれぞれの段階で引き起こされる特徴的な地殻変動は、地震活動を理解するための基本的なデータであり、それを時間的にも空間的にも高い密度で、高精度に観測する技術や、それらから最大限の情報を読み取る解析技術の高度化は、常に地震学の重要目標のひとつになっています。近年、SARを搭載した衛星が各国から次々と打ち上げられ、宇宙から全地球をまんべんなく定期的に観測したデータを用いて、地震活動に伴う地殻変動を観測する技術が急速に進展しています。なかでも、わが国の陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)は、運用開始直後から、わが国を含めた世界各地のさまざまな地殻変動を明瞭に捉え、地震活動の理解の高度化に大きな可能性を示しました。
 衛星データ解析検討小委員会では、標準的データ処理手法の提案、精度と信頼性についての客観的評価、将来に向けての技術的課題の明確化について、特に力点をおいて審議してきました。




 SAR(Synthetic Aperture Radar、和名:合成開口レーダー)は、観測対象物の認識と距離を計測する従来型レーダー(RAdio Detection and Ranging;RADAR)を進化させたもので、相関処理等の特殊な処理をすることで、高分解能で観測対象物(地上)の画像を取得できる映像レーダーです。宇宙からの高分解能センサとして、光学センサとSARが代表的ですが、SARが近年増加している理由として、1)天候に左右されずに観測可能なこと、2)振幅のみならず距離情報の取得が可能なことが挙げられます。特に、後者は地殻変動検出の大きな要因となります。
 SAR干渉解析では異なる二時期に観測した画像を極力同じ処理パラメータで処理をして、二枚の画像の位置合わせを正確に行った後に、位相差(φ)を計測します。

 λ0は宇宙空間における波長、r は衛星から観測対象物までの距離、nは屈折率を表します。添字m はマスター画像(基準画像)を、s はスレーブ画像(比較画像)を表します。式はSAR画像を構成する個々の散乱点(反射点)に対して成立します。一方、SAR映像は、分解能と称される数メートル四方に含まれるすべての散乱体(電波の反射体)からの反射電力と位相量の総和として表現され、SAR画像の位相差はそれらの総和で表現されます。位相差はそれらの位相量の総和であり、ピクセル内の反射体の平均的な位置ずれ量を位相に変換したものとなります。


 地震調査委員会に提出されるSAR干渉解析結果の主な役割は、地震活動を理解するための基本的なデータのひとつとして空間分解能の高い地殻変動情報を提供することです。SAR干渉解析手法は多種多様であるため、その結果に関する提出資料も多種多様になります。そこで、より効率的かつ効果的にSAR干渉結果を作成し利用するため、ガイドラインを策定しました。
 SAR干渉解析処理のフローチャートを図2に示します。処理手順としては1.生データの受信、2.複素画像の作成(図3)、3.位置あわせ、4.干渉画像の作成、5.軌道縞・地形縞の除去、6.位相アンラップ(注1)、7.ジオコーディング(注2)(図4)などが挙げられます。
 このような経過を経て統一した手法で解析が行われることにより、地震調査委員会に提出される資料も、作成者によらず同等な結果が示されることが期待されます。

   


 SAR干渉解析を行ううえで、誤差の軽減も重要です。主な誤差の要因としては、軌道推定の誤差、大気圏(対流圏)におけるマイクロ波の屈折、電離層におけるマイクロ波の屈折が挙げられます。
 衛星の軌道の精度は、軌道縞の推定に大きく影響します。大気圏と電離層における屈折は、マイクロ波の伝播経路をゆがめ、SAR干渉解析で観測される位相に大きな誤差を生じさせます。特に「だいち」で用いられるLバンドSARは波長が長く、電離層の影響を大きく受けます。いずれの誤差も高精度の地殻変動の検出において大きな障害となります。

(注1)アンラップ(unwrap):
SARにより得られる変位情報は、変位に相当する位相の絶対量ではなく−π〜 +πの間の値となる。実際の変位量を求めるために位相の絶対量が−π〜 +πの範囲に折り畳まれている(wrap)のを元に戻す作業をいう。(測地学テキストHPより)
(注2)ジオコーディング:
SAR干渉の処理は、SAR衛星によって得られたレーダー座標系で行い、最後に、標高データを用いて、実際の地表の座標系に変換される。この処理を、「ジオコーディング」という。(国土地理院のHPより)

【解析事例】
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震
 3月11日14時46分頃に発生した東北地方太平洋沖地震の発生前後の地殻変動を図5(P14)に示します。
また、解析に使用したデータなどは表1にまとめました。
 東北地方太平洋沖地震に伴う東北地方から関東地方にかけての広い範囲で東向きの動きがGPS観測結果と同様に観測されているほか、福島県浜通りの地震や茨城県北部の地震に伴う局所的な変動も観測されました。




 マグニチュード8クラスの巨大地震の場合、変動域は300kmを超えます。これまでのSARは、観測幅約70kmのストリップマップモードによる観測が中心であったため、この観測幅で地殻変動の全貌を捉えるためには、10パス前後の互いに隣接するパスにおける観測が必要になります。しかし、各パスの観測で最大約1か月半もの時間差が生じ、後半に得られたデータには余効変動の影響が含まれていると考えられ、断層モデルの推定にも少なからず影響を与えてしまいます。
この問題を解決するのがScanSAR です。
 ScanSARはレーダー(電波)の照射方向を変化させながら観測することにより、広範囲を一度に観測するモードです(図6)。電波照射方向を最大5段階に変化させて観測を行うことにより、350kmの観測幅を実現しており、大規模な地震に伴う広範囲に及ぶ地殻変動の全容を一度の観測で捉えられるようになりました。地表(ターゲット)に対するレーダーの照射が断続的になることにより、分解能が低下するという短所がありますが、ScanSARによる干渉解析が実用的に利用できるようになれば、効率的かつ迅速な地殻変動検出が可能になると期待されます。

【解析事例】
南米チリ地震

 2010年2月27日に南米チリの海岸付近において発生した地震(Mw8.8)の解析事例によると、震央付近における南北約600km、海岸から約200kmの範囲で、大きな地殻変動が生じていたことがわかりました。変動域の中心は南緯35度と37度付近にピークが見られることから、この地震では少なくとも2つのアスペリティで破壊が生じたことが考えられます。
 一方、ストリップマップモードでは全域の地殻変動を捉えるためには7つの軌道からの観測が必要であり、その観測が終了するまでに、地震発生から1か月以上の時間を要します。このように、ScanSARを用いた干渉解析は、広範囲に及ぶ地殻変動の全容を短時間のうちに把握できるという長所を有しています。





 主にサブメートルオーダーの大規模変位を抽出するためのSARデータ解析技術として、ピクセルオフセット法があります。衛星データ解析検討小委員会(以下、小委員会)でも、2008年中国・四川(汶川)地震、2008年岩手・宮城内陸地震において、SAR干渉法では計測困難である震源断層近傍の地表変位を本手法により抽出し、地殻変動分布の全容を明らかにして、地震像の解明に大きな貢献を果たしました。
 ピクセルオフセット解析では、二つの振幅画像の間の位置ずれを計測することで変動量を求めます。通常、二時期に取得した画像間には、(1)画像全体にかかる位置ずれ(平行移動、回転、大きさ)と、(2)画像の一部で起こる局所的な位置ずれが含まれます。(1)の画像全体にかかる位置ずれは、主にセンサの位置や姿勢の違いに起因し、(2)の局所的に現れる位置ずれは、地物の位置の変化(地殻変動)に起因します。
 地殻変動による変化を抽出するためには、まず、二つの画像間でマスタ画像に対するスレーブ画像のオフセットを求め、求めたオフセットから、(1)の画像全体にかかる位置ずれの成分を取り除くことで(2)の局所的な位置ずれ量を得ることができます。具体的には、画像マッチングによって二つの画像間で対応点(ピクセル)を探し、各ピクセルについてオフセットを計算します。得られたオフセットを用いてスレーブ画像をマスタ画像に合わせるための座標変換式(多項式)を求め(図8)、この変換式を用いて(1)のオフセットを計算し、各ピクセルにおける二つの画像間のオフセットから差し引くと、(2)の局所的な地殻変動によるオフセットが残ります。
 ピクセルオフセット解析における長所と短所については、以下のとおりです。

【ピクセルオフセット解析の長所】
〇干渉性に影響されない
 SAR干渉解析の主な条件である、1)変位勾配が小さいこと、2)散乱状態に大きな変化がないことに縛られることなく変位量の算出が可能
〇2成分を計測可能
 衛星−地表間の成分(レンジ成分)に加え、衛星の飛行方向に平行な地表面上の水平成分(アジマス成分)が計測可能なため、北行・南行軌道の両データがあれば、計4成分の変位から完全な3次元変位場を獲得可能
〇位相アンラッピングが不要
 ピクセル間の変位量が直接算出されるため、位相アンラッピングのような複雑かつ面倒な処理を経ることなく、変位場を獲得可能
〇全天候型(光学センサとの比較)
 光学センサと比較して、SARセンサが照射するマイクロ波は、雲などを透過するため天候に左右されず確実に地表情報を獲得可能

【ピクセルオフセット解析の短所】
ロ低計測精度
 計測誤差は概して数十㎝の精度
ロ低空間分解能
 SAR干渉処理に比べ10分の1程度の分解能にとどまる
ロ地形の影響
 二つの画像取得時のセンサ位置が大きく離れていると、画像間で地形の倒れこみの度合いが変わるため、標高差の大きいところで変動を誤抽出する可能性が高い
ロ電離層の影響
 長波長のノイズが含まれることがあり、地殻変動観測に大きな支障をきたす

【解析事例】
中国四川省地震

 2008年5月12日に中国四川省でMw7.9 の地震が発生しました。この地域には、北東−南西方向に約300kmにわたる龍門山断層帯が分布しており、この地震に伴う地殻変動が断層帯の周辺を中心に広く観測されました。SAR干渉解析結果(図9)とピクセルオフセット解析の結果(図10)を比較すると、SAR干渉解析では、地表変位が大きい断層帯近傍において変動量を検出することができませんが、ピクセルオフセット解析では、長さ約200kmにわたり断層帯に沿って明瞭な変位境界が検出されました。その結果、複数の断層から構成される龍門山断層帯のうち北川断層において主な破壊が進行したことがわかりました。


(1)電離層擾乱(じょうらん)による誤差の補正方法
 小委員会の検討により、位相干渉画像やピクセルオフセット解析結果に表れる空間的に中・長波長のノイズの原因が、電離層の総電子数の空間分布の不均一性にあることをほぼ明らかにすることができました。さらに、それらの対処については、数多くのデータを取得し、基本的に電離層状態のランダム性が高いことに期待して、時間的に平均化(スタッキング)を行う方法や、単一データに対して空間的フィルター処理を施し、中・長波長のノイズを除去する方法を提示することも行いました。
 しかしながら、それらの誤差除去方法は、ノイズ自体を根源的に取り除く根本的な解決方法ではなく、まだ完全なものではありません。

(2)雪氷被覆による相関低下の対処方法
 これまでの多くの観測事例において、雪氷に覆われた地域では、位相の干渉性が極度に劣化して、地殻変動情報の取得に深刻な悪影響を与えることが指摘されています。わが国においても、特に高緯度地方や山岳部においては、年間のかなりの期間が雪氷に覆われる地域があり、その期間に地震が発生した場合には、SAR干渉解析では、地殻変動の即時把握が困難になる恐れが高いと言えます。

(3)多種衛星利用による時系列解析
 これまでSARを搭載した衛星が各国から打ち上げられ、利用可能なデータ量が増えており、時間的にも空間的にもカバーされる領域が飛躍的に拡大しつつあります。多種の衛星からのデータを統一的に解析して、地殻変動の時間的発展のようすをきめ細かく解析する手法の開発が世界的に進んでいます。小委員会では、海溝型地震の準備過程である海洋プレート沈み込みによる広域の定常的な地殻変動の検出方法について、関連する議論を行いましたが、十分にその可能性を掘り下げるまでには至りませんでした。
 なお、打ち上げ後の5年間、数々の貴重な観測データを取得し、わが国周辺はもとより地球上の各地で発生した主要な地震に関する理解を深めるために多大な貢献をした陸域観測技術衛星「だいち」も、平成23年4月22日電源機能を喪失し、5月12日に運用を終了しました。世界的にみても大きな特徴のあるLバンド衛星が失われた影響は大きく、現在打ち上げ計画が推進されている次号機(ALOS−2)の順調な打ち上げと観測開始が強く待たれるとともに、世界各国の他の衛星のデータの有効活用が従来にも増して重要な課題となっています。
 報告書の詳しい内容については、以下をご覧ください。
http://www.jishin.go.jp/main/eisei/index.htm

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