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  3. 長周期地震動予測地図1

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)



 地震調査委員会では、2003年十勝沖地震時の苫小牧での石油タンク火災(写真1)など、首都圏や大阪など堆積平野上に立地する超高層建物の揺れの原因の一つとされる長周期地震動について、平成19年度よりその予測手法と予測結果の公表方法について検討を行ってきました。平成21年9月には、想定東海地震、東南海地震、宮城県沖地震を対象とした「長周期地震動予測地図」2009年試作版を公表したのに続き、今回、南海地震(昭和型)を対象に作成した「長周期地震動予測地図」2012年試作版を公表しました。
 地震本部ニュースでは、P4〜P7にわたり、この「長周期地震動予測地図」について特集します。まずは「長周期地震動とは?」と題し、長周期地震動による影響と対策も含めて解説し、P6〜P7で長周期地震動予測地図の具体的な活用方法を示します。


 地震が発生すると、震源で発生した地震波が地面や地中を伝わり、震源から離れた場所の地面が揺れます。これを地震動といいます。一般の地震動には、短い周期の地震波によるガタガタとした揺れと、長い周期の地震波によるゆっくり繰り返す揺れとが混ざっています。この後者の揺れを長周期地震動といいます。長周期地震動は、短い周期の揺れに比べて揺れが収まりにくく、海の波のうねりのように、震源から遠くまで伝わりやすい性質があります(図1のB)。
また、長周期地震動には、深い地下構造の影響を受けやすい性質があります。特に、深い地下構造が凹状で軟らかい地層が堆積している所(堆積盆地)では、軟らかい地層により揺れが増幅したり、表面波と呼ばれる地表に沿って伝わる波が発達したりして、揺れの継続時間が長くなる傾向があります(図1のC)。
 なお、周期が何秒より長い揺れを長周期地震動と呼ぶかについては、あまり明確な定義がありませんが、以下に述べる高層建物などの長周期構造物に影響を及ぼす地震動という観点からは、概ね2〜3秒より長い周期の揺れを指します。ここでは、周期2〜3秒から周期10〜 20秒程度までの地震動を「やや長周期地震動」と定義しています。


 はじめに、建築物への影響について示します。
 まず、戸建住宅をはじめ低層のオフィスビル・マンションなどの建物に対しては、長周期地震動はほとんど影響しません。これに対し高層の建物では、建物の周期(固有周期)が長周期地震動の周期に一致すると、非常に大きな影響を与えると考えられます。日本建築学会の調査結果1)によると、一般的な高層建物の場合、固有周期T(秒)と建物階数Nおよび高さH(m)との関係は、概ねT=(0.049〜0.082)N、T=(0.015〜0.02)Hとなっています。但しこれは、揺れが小さい場合における実測結果の傾向を示したもので、揺れが大きくなると固有周期は更に長めになることが知られています。
 また、地震から建物を守る技術として最近脚光を浴びている免震建物も、長周期地震動の影響を受ける可能性があります。免震構造は、地震時に主に水平方向に対する揺れの周期を長くして地面の揺れの周期から外す働きをするアイソレータと、揺れのエネルギーを吸収し揺れを抑える働きをするダンパーとを組み合わせた構造ですが、もともと周期の短い低層建物用に開発された技術であり、短い周期の 揺れを低減しやすい反面、長い周期の揺れを低減しにくい性質があります。このため、長周期地震動に対しては、免震装置の効果が小 さくなる場合があることに留意する必要があります。
 建築物以外の構造物の固有周期については、各種の調査研究結果2)〜4)によると、例えば首都圏の代表的な長大道路橋では概ね4〜9秒程度、満液状態にある直径30〜60mの石油タンクのスロッシング周期では概ね7〜10秒程度となっています。
 次に、長周期地震動による人体感覚をみてみましょう。図2は、高層建物の風振動に関する居住性評価の調査結果5)、住宅内の家具転倒に関する調査結果6)、長周期の大振幅加振が可能な振動台での実験結果に基づく避難行動限界曲線7)をまとめてグラフに示したものです。図より、揺れの速度が20cm/s程度以下の僅かな値でも、90%の人が揺れを感じることがわかります。また周期5〜10秒の範囲では速度が70〜90cm/sになるとやや不安を感じ、周期5秒付近では速度が150cm/s程度、周期7秒付近では200cm/s程度を超えると避難行動が困難になること、更に周期5秒付近では、書棚が140cm/s程度で転倒することなどが示されています。
 では、実際に高層建物が長周期地震動に見舞われると、その室内はどうなるでしょうか。独立行政法人防災科学技術研究所の実大三次元震動破壊実験施設(通称E−ディフェンス)における、想定南海地震の長周期地震動8)による高層建物の室内状況の再現実験結果9)によると、室内は周期約3秒で3分余り揺れ続け、揺れの最大速度は約230cm/s、最大変位は約2.6m(両振幅)に及んでいます。この最大速度を図2と照合すると、書棚が倒れ、避難行動が困難になるレベルの激しい揺れであることがわかります。写真2は、オフィスおよび集合住宅の室内を模した試験体の実験後の状況です。以上のことから、長周期地震動による高層建物での揺れがいかに恐ろしいものであるかが容易に想像できます。なお、この実験映像は、防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センターのホームページ(http://www.bosai.go.jp/hyogo/research/movie/movie.html)に紹介されていますので、ぜひ一度ご覧ください。




 では、長周期地震動による揺れに対し、事前にどのような対策を講じておけば良いでしょうか。まず、食器棚・本棚などの背の高い家具や、オフィス用コピー機など大きく重い什器については、種々の固定器具などで固定するのが有効です。但し背の高い家具では、たとえ棚を固定していても中の食器類や本が落下・飛散する可能性があり、この場合は扉開放防止器具などの併用が有効です。ひとたび長周期地震動が発生すると、家具・什器や収納物などが突然凶器と化すことを、しっかり認識し対策する必要があります。できれば、物を余り置かない安全な部屋を予め決めておき、地震が来たらそこに逃げ込むこと、最低限寝室は安全にしておくことなど、日頃からオフィスや家庭で地震時の対応を考えておくことが大切です。
 なお、長周期地震動は遠方の大きな地震による場合が多く、その場合は揺れ始めから揺れが大きくなるまでに多少猶予がありますので、緊急地震速報の有効活用を図るなど、揺れが来る前に身の安全を図ることも考えておきましょう。

【参考文献】
1)日本建築学会:建築物の減衰, 日本建築学会, p.131 〜 143, 2000
2)小森和男ほか:首都高速道路における長大橋耐震補強の基本方針と入力地震動, 土木学会論文集, 794/I–72, p.1 〜 19, 2005
3)Housner, G. W.:Dynamic pressures on accelerated fluid containers, Bull. Seismol. Soc. Am., 47, p.15 〜 35, 1957
4)座間信作:1983 年日本海中部地震による苫小牧での石油タンクの液面揺動について, 消防研究所報告, No.60, p.1 〜 10, 1985
5)日本建築学会:建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説 [2004 改訂], 日本建築学会, pp.132, 2004
6)日本建築学会:非構造部材の耐震設計施工指針・同解説および耐震設計施工要領, 日本建築学会, っpp.322, 2003
7)Takahashi, T. et al.:Shaking table test on indoor human performance limit in strong motion for high-rise buildings, Proc. 8PCEE, Paper No.131, 2007
8)藤谷秀雄ほか:想定南海地震時の神戸市東遊園地における強震動予測と既往観測記録との比較:高層建物の非構造部材・家具什器に関するE−ディフェンス振動実験−その2, 日本建築学会大会学術講演梗概集, B-2, p.553 〜 554, 2007
9)榎田竜太:大振幅応答を実現する震動台実験手法の構築と超高層建物の室内安全性,日本建築学会構造系論文集, 74, p.467 〜 474, 2009

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)

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