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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 救援物資を市民のもとへ届けるために



 被災した地方自治体にとって、り災者の食料や日用品などに対するニーズを調べ、必要な物資を調達し、避難所などに配送を行うことは、災害時の主要な応急対策業務のひとつです。しかし、阪神・淡路大震災や、その後の大きな災害でも、被災者に十分に適切な物資が届かないことが、しばしば問題となっています。


 その原因は、調達できた物資の量が足りなかったからばかりでは必ずしもありません。むしろ、市役所まで届いた物資は膨大なのに、避難所には適切な物資が行き渡らない場合が少なくありません。単純な調達量の不足ではなく、物流マネジメントに問題があるのです。その原因は、行政機関が、物流マネジメントを苦手としているためと、考えられます。
 大災害の発生時に、地方自治体は、救援物資の輸配送業務を含め、さまざまな応急対策業務を行います。
火災に対する消火活動や、損傷を受けた道路や水道に対する復旧活動などです。こうした地震火災やライフライン被害は、平常時の火事や事故に比べて規模が大きいため、その対応は容易ではありません。とはいえ、消火活動については消防機関、ライフラインの復旧作業については道路部局や水道部局など、行政機関のなかに、平常時からの専門部署があります。ですから、災害時には業務量は大きくなるものの、消防吏員などの必要となる業務知識を有する職員や、消防車などの有用な設備・機材も、行政機関は所有しています。
 これに対して、救援物資の物流業務は、どうでしょう。平常時から、日々変わるニーズに対応し、膨大かつ多岐にわたる物資を調達して、多数の拠点へ迅速に輸送することを専門的に行っている部署は、地方自治体のなかにはありません。従って、地方自治体は、物流や在庫管理の専門知識も、倉庫やフォークリフトのような設備や機材も所有していません。そのため災害時には、役所の駐車場や図書館などに救援物資が山積みになって、どこに何があるかわからなくなり、避難所に適切な物資を届けられない事態となってしまいがちなのです。
 こうした事態を避けるためには、平常時の地方自治体の業務分掌の枠を超えた体制を構築する必要があります。庁内では、平常時の部署を横断した組織をつくるとともに、外部組織との連携も求められます。


 災害時に、地方自治体は、災害対策本部を設置して対策にあたります。本部体制を構成する各班には、多くの地方自治体では、平常時の各部署をそのまま割り当てています。例えば、救急医療業務は、医務課が対応します。しかし、救援物資の輸配送業務は、平常時の役所の組織体制では、どの部署にも当てはまりません。この場合は、災害時に発生する業務内容にもとづき、組織を設計することが望まれます。
 たとえば新潟県では、平成16年新潟県中越地震の教訓にもとづき、災害対策本部体制を見直しました。
そして、救援物資の輸配送業務は3 つに分割し、各業務を担当する班を新設しました。すなわち、救援物資の調達は救援物資班が、食料の調達は食料班が、これらを運ぶトラックなどの手配は輸送調整班が担当する体制としました。そして、食料班は単独の部署に割り当てるのではなく、米穀の調達先となるJAなどと平常時から関係の深い農政部局や、スーパーなどと関係のある産業部局の職員などとの混成部隊としました。
このような、常設の部署を横断して構築した組織体制は、複数の専門知識を有する職員が緊密に連携できるため、災害時のような、情報処理負荷の高い事態に対応するための組織体制として有効と考えられます。


 こうして庁内の組織体制を工夫したとしても、そもそも行政機関のなかには、物流業務を効率的に実施するために有用となる人材や資源が不足しています。そこでさらに、物流を専門とする外部の機関の支援を受けられるよう、協力体制や計画を整備しておくことが重要になります。
 たとえば、横浜市では、物流企業の社員が、市の災害対策本部に参加し、救援物資の輸配送計画の立案などの応援をする計画としています。また北九州市では、緊急物資の受入れ、仕分け、在庫管理、避難所への配送までを一元管理するセンターを設置します。このセ
ンターは、市の庁舎ではなく、大規模展示場など、あらかじめ選定した物流業務に適した施設に設置します。その運営も、市職員と民間の宅配便事業者でチームを組んで行います。協定を締結した宅配便事業者は、救援物資の荷に 捌さばきや倉庫管理などの現場作業を指導するとともに、フォークリフトなどの機材を貸与する計画です。さらに、こうした支援計画が絵に描いた餅とならないように、あらかじめ、行政職員、物流企業、そして、荷捌き業務などを行う市民ボランティアが参加した実働訓練も実施しています。
 このように、災害という異常事態に対応するためには、平常時の体制の枠を超えた、組織マネジメントが重要となります。思い切った組織の組み替えや、外部機関との積極的な連携体制づくりには、トップの理解とリーダーシップがかかせません。
    
参考文献
(1)DRI 調査研究レポートVol.21『地方自治体の災害対応の要諦』人と防災未来センター,2009
(2) 『横断組織の設計—マトリックス組織の調整機能と効果的運用

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