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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 建築耐震設計における成果の活用


 地震調査研究推進本部により提供されている様々な成果は、建築物の耐震設計において、有用な情報として活かされています。本稿では、建築物の耐震工学を教育・研究する立場で、建築耐震設計における成果の活用について考えてみることにします。


 建築を志す学生が最初に学ぶ言葉の一つに「強・用・美」があります。この元は二千年前にローマ時代の建築家ウィトルウィルスが著した建築十書にある「強がなければ用は果たせない。
強と用がなければ美は形だけのもの、そして、美がなければ建築とはいえない」という一文です。
 この文章から分かるように、建築物の最も大事な役割は、その利用者と財産を守ることです。このための設計が構造設計です。構造設計では、自重・積載荷重・積雪荷重・風荷重など、建築物に作用する様々な荷重に対して検討をしますが、我が国では、横力については地震荷重が支配的になるため、耐震設計が重要な位置を占めています。
 日本国内の建築物は、建築基準法を順守する必要があり、その第一条には、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と記されています。国民の生命、健康及び財産の保護を図ることは目的としつつも、構造に関する最低の基準を定めているにすぎません。決して絶対に安全な建物を求めているわけではありません。
 耐震安全性の検証には複数の方法が用いられています。高さ60m を下回る建築物では、通常、許容応力度等計算や限界耐力計算と呼ぶ検証法が用いられています。両方法ともに、法令に規定された地震荷重を静的に建築物に作用させて建築物の安全性を検証し、自治体や民間の建築確認検査機関の建築主事等の確認を受けます。
 一方、60mを超える建築物の場合には、時刻歴計算に基づく特別な検証法(地震応答計算)により安全性の検証を行います。免震建物の多くも時刻歴計算を用いています。この場合には、(財)日本建築センターなどの指定性能評価機関において有識者が性能評価を行い、その結果を受けて国土交通大臣が認定(大臣認定)を行います。
 ちなみに、我が国には、約5,000万戸の住宅と、350万棟程度の非住家建物が存在すると言われています。住宅の約半数は共同住宅ですから、国内の建築物数は3,000万棟程度だと思われます。これに対し、高層建物は約2,500棟、時刻歴応答計算により設計された免震建物は約1,500棟です。すなわち、時刻歴計算を行った建物は、我が国の建物総数の1万分の1と言うことになります。
 一年間に時刻歴計算で検証されている高層建物・免震建物は300棟程度です。
年間の新築建物は40〜50万棟だと思われますので、時刻歴計算をしている新築建物は、全建物に対して0.1%、非住家建物に対して1%のオーダーになります。地震動を直接設計に利用する建物は決して多くはありません。


 時刻歴計算に用いる地震動は、平成12年建設省告示第1461号に規定されています。告示には、減衰定数5%の加速度応答スペクトル(告示スペクトル)が定められていて、これに適合する模擬地震波(告示波)を作成します。
ただし、「敷地の周辺における断層、震源からの距離その他地震動に対する影響及び建築物への効果を適切に考慮して定める場合においては、この限りでない」とも記されており、建設地の特性を考慮して作成した地震動(サイト波)の利用も許容されています。
 性能評価は、各指定性能評価機関が定めた時刻歴応答解析建築物性能評価業務方法書に基づいて行われます。ここには、入力地震動として、3種類以上の模擬地震波と、3波の観測地震波を採用することが記されています。模擬地震波として告示波とサイト波のいずれを採用するかは設計者の判断となりますが、多くの場合、告示波3波が用いられています。
 告示波の策定には、位相特性として乱数位相や、観測地震波の位相を用います。一般には、乱数位相と、遠距離と近距離の2つの地震の観測地震波の位相(例えば1968年十勝沖地震・八戸港湾のNS 方向の記録と1995年兵庫県南部地震・神戸海洋気象台のNS方向の記録)が用いられています。告示スペクトルは、解放工学的基盤で規定されていますので、地盤の地震応答解析により表層の応答増幅効果を反映します。この際に、表層地盤の非線形性を考慮するのが一般的です。
 観測地震波としては、1940年インペリアルバレー地震・エルセントロでのNS 方向、1952年カーンカウンティ地震・タフトでのEW 方向、1968年十勝沖地震・八戸港湾でのNS 方向の3つの観測波の採用が慣例となっており、「極めて稀な地震動」の場合は、最大速度振幅を0.5m /s に基準化して用いています。これらの波は異なるスペクトル特性を持っていますので、3波を併用することで、幅広い周期範囲で山谷の少ないスペクトル特性の検討ができます。ただし、3波に共通して周期2秒前後にスペクトルの谷があるため、固有周期2秒前後の高層建物が多く作られた時期もあります。このことは、理想化したモデルで計算した谷の存在する理論地震動の扱いにくさとも関連します。
 サイト波としては、国(中央防災会議など)や自治体(大阪府など)で作られた地震動や、地域の標準的な地震動(愛知県設計用入力地震動研究協議会など)を用いる場合と、建物毎に予測する場合があります。強震動予測には、震源破壊過程や距離減衰を踏まえた応答スペクトルを用いる方法、経験的グリーン関数法、統計的グリーン関数法、波数積分法、有限差分法などを単独あるいは組み合わせて用いています。まさしく、地震本部の成果が直接的に生かされる場です。
 強震動予測に当っては、設計で想定すべき地震の選定、震源のモデル化、伝播経路のモデル化、堆積平野の深部地下構造や表層地盤のモデル化、予測結果の検証などが必要になります。想定地震の選定の際には、地震の長期評価結果を参考に、地震発生確率と建物の供用期間・重要度を踏まえて判断します。震源のモデル化の際には、活断層調査結果などを調べたり、過去の地震の震源の諸元を参考にします。地盤モデルは、堆積平野の地下構造調査や当該地盤の地盤調査結果などに基づいて作成します。その際に、K-NET やKiK-net の観測記録によりサイトの周期特性の確認を行うこともあります。
とくに、建設地近傍に観測点があり、想定地震の震源域での中小地震の記録が存在する場合には、経験的グリーン関数法が有用になります。最後に、地震動の評価結果の検証には、地震動予測地図やハザードマップなどを参照します。このように、予測結果よりは、地震動予測地図の作成に用いた基礎データや技術資料が設計で役立てられています。


 大規模な建築物の設計ができる一級建築士の登録者数は329,508人(2008年3月時点)です。このうち、一定規模以上の建築物の構造設計ができる構造設計一級建築士は8,263人(2009年11月時点)です。また、日本建築構造技術者協会が認定した建築構造士は2,688人(2009年9月時点)います。
この中で、高層建物や免震建物などの耐震設計に携わっている技術者は数百人程度だと思われます。すなわち、地震動の直接の利用者は、建築士の千人に一人程度だと言うことです。
 我が国では、総人口12,700万人のうち、東京・大阪・名古屋の50キロ圏に、3,100万人・1,700万人・900万人が住んでおり、国土の5%程度の地域に国民の約半数が居住し、全てがここに集中しています。高層建物を例にすると、約2,500棟のうち約1,100棟が東京都内に建設され、高層建物の構造設計者も東京に集中しています。例えば、建築構造士約2,700人のうち約1,100人が東京に居ます。しかし、大都市圏は、大規模堆積平野に立地し、長周期で揺れやすく、沖積低地での表層地盤の地震動増幅も大きくなります。
この様子を図示したのが図1です。
 図中には、地震本部による確率論的地震動予測地図(今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率)、工学的基盤に対する地表の震度増分、中央防災会議の中部圏・近畿圏の内陸地震に関する検討による深部地盤の固有周期分布を示しています。これと対比して、都道府県別の人口密度、単位面積当たりの県内総生産、住宅数、建築構造士人数、昭和56年以前の公立小中学校建物の耐震化率、地震保険世帯加入率を示しています。
また、図2には、各都道府県の、人口、県内総生産、高層建物、免震建物、構造設計一級建築士、建築構造士の全国割合を示しています。
 図から、三大都市圏、中でも首都圏への集中が良く分かります。県内総生産と構造設計一級建築士の分布はほぼ相似で、技術者数は経済規模によること、高層建物や免震建物はさらに大都市に集中し、高層建物分布と建築構造士分布は相似なことが分かります。また、地震動予測地図の確率分布と小中学校の耐震化率や地震保険契約数とがよく対応しており、地震本部の成果が一般市民の防災意識向上に極めて大きな役割を果たしてきたことが分かります。
 図3は、デジタル標高地図の上に東証一部・二部上場会社の本社位置と鉄道路線図を示しています。図から、軟弱な地盤上に重要施設が集中して立地していること、鉄道の路線は明治期の市街地を避ける形で敷設されていることが分かります。これらのことから、大都市圏内の表層地盤の増幅特性や、やや長周期域の卓越周期の解像度の向上の重要性が良く分かります。
 表層地盤の重要性を実感するために、150年前に広重が描いた江戸名所百景に着目し、図4に、日比谷を通る東西断面上に、浮世絵地点の写真・浮世絵・微動H / V スペクトルを、東京都土木局の地質断面図・現在の地図・江戸切絵図・デジタル標高地図・武村氏により推定された関東地震の震度分布と一緒に示します。図から、地形改変や土地利用の変化、表層や地盤震動特性の局所的な変化と震度分布との対応などが見てとれます。このことは、都心部での局所的な表層地盤の変化の大きさと、生活圏に近い場所での地盤調査データの蓄積の必要性を示していると言えます。
 すなわち、地震本部の成果を、工学や一般社会にさらに役立てるには、都市域の生活圏に近い位置での調査を重点的に進めること、調査結果の利用者である構造技術者の量と質の拡大を図ること、直接的な工学利用に加え国民や社会を防災行動に誘導するために社会 の欲する形で情報を提供すること、などの重要性が指摘できます。今後のより素晴らしい成果の活用を期待します。





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