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熊本地震に対する調査研究機関の取組みー情報通信研究機構ー

調査研究レポート 熊本地震に対する調査研究機関の取組みー情報通信研究機構ー

はじめに

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) は2016年4月16日未明の熊本地震本震発生にあたり、NICTで研究開発を実施している対災害SNS情報分析システムDISAANAによるTwitter分析結果の提供や、超高速インターネット衛星(WINDS)と可搬型無線通信システム(ナーブネット)による高森町役場へのインターネット回線の提供を実施しました。合わせて、被災地でのコミュニケーション支援のため、NICTが開発に関与してきた多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」や聴障者とのコミュニケーション支援アプリ「こえとら」「SpeechCanvas」の利用促進に向けた情報提供を行いました。ここでは、地震災害状況の把握への貢献のため、NICTで研究開発を実施している航空機搭載合成開口レーダーPi-SAR2を用いて本震翌日の17日に実施した緊急観測飛行への取り組みについて紹介します。
 今回の緊急観測飛行では、NICT本部にある高速データ処理装置により観測した全領域の画像を作成し順次公開するだけでなく、迅速な情報提供のために、関心が高いと思われる場所について機上データ処理装置により画像を作成、衛星通信によりNICT本部へ伝送し、順次NICT WebサイトおよびPi-SAR2画像表示システムX-MAPで公開しました。

Pi-SAR2の概要

 航空機搭載合成開口レーダ(航空機SAR)は昼夜や天候に影響されず、地上の広い範囲を高い地上分解能で詳細に画像化することが可能で、災害時の早期状況把握における有効性が期待されています。NICTではこの目的に沿った航空機SARに関する技術開発を1990年代より行っており、1996年度には初号機Pi-SAR(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構と共同開発したX, Lバンドの二周波SAR)を開発、2008年度には空間分解能0.3mを持つ二号機Pi-SAR2を開発し、運用を行ってきました(地震本部ニュース2016年春号、調査研究レポート参照)。
 NICTが開発した航空機搭載SARは2004年新潟県中越地震や2011年東日本大震災等の災害発生時に、地上の状況を把握するための緊急観測を行ってきました。それらの緊急観測で明らかになった課題への対応として、二号機Pi-SAR2での地上分解能の向上(Pi-SARの1.5mに対しPi-SAR2では0.3mを達成) に加え、観測飛行中の機上データ処理機能や衛星通信による画像伝送機能の追加、さらにはWeb GIS機能を利用したPi-SAR2画像表示システムX-MAPの整備等、観測データ公開手法の開発を行ってきました。今回の熊本地震ではこれらの機能を用いて、地上の詳細な状況について迅速に関係機関等に公開しました。

熊本地震への取組み

 今回の熊本地震に関しては、4月14日夜に発生した地震(M6.5、最大震度7。後に前震と判明)の発生時から被害状況に関する情報収集を行いつつ、航空機運行会社(ダイアモンド・エア・サービス)と緊急観測飛行に向けた調整を行っていました。4月16日未明の本震(M7.3、最大震度7)発生を受け、同日午前中にPi-SAR2緊急観測飛行の実施を決定しました。当初は同日夜の観測飛行実施を目指して、航空機へのレーダー機器搭載や観測計画作成等の観測準備を進めていました。しかしながら、被災地では同日夜から翌17日朝にかけて強雨が予想されており、山間部での土砂崩れ等の二次災害による被害拡大の恐れがあることから、降雨後の状況把握を重要視し、17日早朝に観測飛行を実施しました。
 Pi-SAR2は午前7時ごろ県営名古屋飛行場を離陸し、午前8時15分ごろから約2時間にわたり大分県から熊本県にまたがる領域(図1)で6観測パスの観測を行い、午前11時ごろに県営名古屋飛行場に着陸しました。

図1 熊本地震に対する緊急観測の観測領域(国土地理院の電子国土Webを利用して作成)

 迅速な情報提供のため、観測の合間にあるレーダーを動作させない時間(10分程度)を利用して機上データ処理装置にデータを取り込み、観測パスごとに関心が高いと思われる場所の速報画像を作成、衛星通信によりNICT本部へ順次伝送しました。また、すべてのパスを観測終了後、関心が高いと思われる観測パスについては直ちに機上データ処理装置を用いて高分解能画像を作成、県営名古屋空港着陸後にインターネットを通じてNICT本部へ伝送しました。
 NICT本部では伝送された速報画像や高分解能画像をNICT web上で午前9時過ぎから順次公開しました。また、午後6時ごろからはPi-SAR2画像表示システムX-MAP(図2)での公開を開始しました。

図2 Pi-SAR2画像表示システムX-MAPの表示例

 観測飛行の後、観測データはNICT本部へ輸送され、地上の高速データ処理装置で全観測領域の画像作成を行い、順次X-MAP上で公開しました。地上の高速データ処理装置は機上データ処理装置よりも高速ですが、全観測領域の画像作成には数日を要しました。
 航空機SARにより得られた画像は標高の変化により水平方向に歪んでおり、画像判読時の位置合わせが難しくなることから、標高データを用いて水平方向の歪みをなくすオルソ処理を施した画像も作成しました。
 緊急観測で得られた画像の例として、阿蘇大橋周辺の画像を図3に示します。これらの観測結果は一般に公開するだけでなく、利用可能性のある関係機関等には積極的に連絡を行い、観測結果の利用促進を図りました。特に、国土交通省国土技術政策総合研究所では高分解能画像からの崩壊地の抽出を試みていただき、航空機搭載合成開口レーダーの崩壊地抽出への可能性を示していただきました。

図3 阿蘇大橋周辺。HH偏波に赤、HV偏波に緑、VV偏波に青を割り当てており、紫色の領域は裸地や崩壊地と考えられます。

 今回の熊本地震は日本有数の火山である阿蘇山の近くで発生しました。NICTは火山災害への対応に関する検討の一環として、2015年12月に阿蘇山周辺の観測を行っていました。このため、地震後の画像だけでは判読が難しい個所を、熊本地震前後の画像比較により判読することができました(図4)。

図4 阿蘇大橋周辺。地震前に青、地震後に赤を割り当てており、変化している部分を色で判別できます。

次への課題

 今回の熊本地震に関して、航空機搭載合成開口レーダーPi-SAR2は発災翌日に画像公開システムを通じた画像提供を開始するなど、運用面ではうまく対応できましたが、画像作成や利用の面でさらなる課題が見えてきました。
 今回提供した画像は電波の性質(偏波)に基づく色付けをしたカラー画像で、短偏波のモノクロ画像よりは判読に有効ですが、地表面の状態を表現しているわけではありません。このため、地表面の状態を判読するには専門的な知識や判断能力を必要とします。近年、偏波成分の情報から地表面の状態を判別する手法の研究が進んできており、これらの知見を取り込むことでより判読しやすい画像を提供できると考えています。
 また、地震により大規模な地形変化が生じている場合には、地震後の標高データを用いてオルソ処理を行う必要がありますが、Pi-SAR2の観測による標高データを利用できませんでした。
 今回の熊本地震では観測領域全体の画像を作成する間にも大きな地震が続いており、状況が刻々と変わっていく可能性がありました。変化してゆく状況に対応するために処理速度を向上させる必要があります。加えて、空間分解能の向上や偏波情報の利用に伴い、データ量が飛躍的に増加しており、情報インフラに対する負荷が大きくなっています。特に被災地では情報インフラ自体も被害を受けていると予想されますので、情報量を減らさずにデータ量を減らす工夫が必要です。
 NICTでは、今後も新たな知見を取り込むことで、災害時における航空機SARの状況把握能力の向上とともに、容易に利用するための高次処理技術についても開発を進めていきます。

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