目次
余震の確率評価手法について
(1)余震確率評価の基本的な考え方
(2)余震確率評価手法の検討範囲
1)内陸地殻内の地震
@内陸地殻内の地震の独立153事例に基づく事実
A内陸地殻内の地震が発生したときの判定法
2)内陸マントル上部の地震
@内陸マントル上部の地震の独立44事例に基づく事実
A内陸マントル上部の地震が発生したときの判定法
3)海域の地震
@海域の地震 の独立149事例に基づく事実
A海域の地震が発生したときの判定法
1)Gutenberg-Richterの法則
2)改良大森公式
3)GR式とMO式の組み合わせによる余震活動の確率評価手法
4)ETASモデルの適用
1)過去の活動における平均的なパラメータ
2)過去の活動と平均的なパラメータによる確率の比較
@過去の事例と余震発生確率
A過去の事例と最大余震発生確率
3)余震確率モデルの適用範囲と効率的な余震確率評価
(1)余震確率評価の対象とする地震
(2)当面とるべき余震確率評価手法
(3)余震確率評価の理解を推進するための留意点
余震の確率評価手法について
地震調査研究推進本部地震調査委員会は、地震防災対策特別措置法第7条第2項第4号に基づき、各機関の地震に関する調査結果等を収集し、整理し、分析し、定期及び臨時の会合において総合的な評価を行っている。
その主要な任務である地震活動の現状評価においては、被害地震が発生した場合、余震活動等今後の見通しに関する評価が地震が発生した地域の住民や自治体等にとって有効な防災情報の一つになっている。
地震調査委員会は、余震に関して、統計的及び確率的な側面から、その評価手法等について具体的な検討を行ってきた。
本報告書は、その検討結果をとりまとめたものである。
(1)余震確率評価の基本的な考え方
大きな地震が発生した場合、そのほとんどが余震を伴う。大きな被害を伴う地震が発生した場合、余震は本震の恐怖がさめやらない住民にとっては大きな不安である。平成7年9月に行われた「地震に関する世論調査」(総理府, 1995)によれば、住民が地震発生直後に知りたい情報として、「安否情報」、「震度」の割合が高く、次いで「震源と規模」、「ライフラインの被害と復旧状況」、「今後の余震の見通し」がほぼ並んでいる。また、地震発生から数時間後に知りたい情報としては、「ライフライン及び交通機関の被害状況と復旧の見通し」に次いで、「今後の余震の見通し」の割合が高い。「今後の余震の見通し」とは、具体的には、大きな余震がいつくるのか、どのくらい揺れるのか、余震がいつ収まるのか等を指すと考えられる。地震学の現状においては、これらすべての疑問に明確に答えることはできないが、科学的に評価できる内容については積極的に評価を実施すべきである。
次節以降に述べる手法により、本震−余震型の活動における余震については、確率的な表現を用いて評価することが可能である。この評価は情報の持つ意味を十分に理解することにより、むやみに心配する必要はない、あるいは注意が必要である旨の情報として、適切な対策を施したり、危険な作業の延期により損害を最小限に抑える等、地域の防災対策に有効に利用できる可能性がある。
しかしながら、余震確率は評価の一手段であり、現状で行っている地震に関する評価の一環として用いるべきである。このため、確率情報の公表に当たっては、安易に「確率」だけに頼ることなく、本震−余震型の活動であること等を評価した上で、その適用範囲内において用いるべきである。
さらには、情報の受け手が確率情報の数字を正しく理解し、混乱しないために十分な解説と工夫が必要であり、そのために確率評価の条件を必要に応じて固定する、平静(地震が起きていない)時の確率との比較をする、過去の事例数を併記する等の工夫が必要である。
また、ふだんから、確率評価がどのような状況で公表されるのか等の余震に関する知識の普及のための解説が必要である。
(2)余震確率評価手法の検討範囲
本報告書は、本震−余震型の活動における余震確率評価手法をとりまとめたものであり、現状の地震学で確立した内容であることを念頭に置いている。
具体的には、余震確率評価手法は、本震−余震型の地震活動を対象とし、なおかつ、評価対象の余震はいわゆる狭義の余震である(注)。その内容として、改良大森公式とGutenberg-Richter式の組み合わせによる確率評価手法を議論の中心に据え、過去事例とモデルとの対比、本震−余震型か否かの判断の基準にできる事項及びETASモデルとの比較について検討を行った。また、この中では、余震の発生確率のみならず、発生予測数等の検討も行った。
次に本震発生時からの経過時間を考慮した余震確率評価手法の適用方法を検討するとともに、その評価における具体的な表現例について検討した。
なお、余震に関して住民が大きな関心がある事項には、大きな余震の発生時期、大きな余震が起きる場所、大きな余震による特定の場所の揺れ等が含まれると考えられる。これらについても若干の検討を行ったが、現状では社会に公表できるほどには評価の手法が確立されていないと考えられるので、今回報告するには至っていない。
注)一般に地震が発生すると、その地震が発生した場所の近傍で、最初の地震より小さい地震が多数発生する。最初の地震を本震、それに続く小さな地震を余震といい、このタイプの地震活動を本震−余震型という。また、本震の直後(数時間から1日程度)の余震分布は本震の震源域をほぼ表している。狭義の余震とはこの近傍の余震をいい、ここから飛び離れて起こる地震はいわゆる広義余震または、誘発地震ということもある。なお、本震が発生するより前に本震の震源域となる領域で小さい地震が発生することもあり、このような地震を前震という。
余震確率評価手法は本震−余震型の活動に関して有効である。後述する余震確率評価に効率よく移行するため、過去起きた地震の事例を基に地震活動が始まったごく初期の段階で、その活動が本震−余震型であるかを経験的に見極める手法(伊藤他, 1997)を述べる。
対象とする最初の地震の震源位置、規模を基準にして、便宜上以下のカテゴリーに分類する。
内陸地殻内の地震 M≧5.5 h≦30km
内陸マントル上部の地震 M≧6.0 30km<h≦80 km
海域の地震 M≧6.5 h≦80 km
(M:マグニチュード、h:震源の深さ、以下同じ)
なお、最初の地震に時空間的に近接した一連の地震活動を独立の1事例として扱う(干場他, 1993)。「内陸」の範囲は図1に示した。「海域」は内陸の範囲の外を指す。
1)内陸地殻内の地震
@内陸地殻内の地震の独立153事例に基づく事実
(M≧5.5、h≦30km、1926-1995年、図1)
ア)M≧6.4 の地震の場合
後にそれを超える地震が発生したことはない。
イ)6.3≧M≧6.0の地震の場合
・ より大きな規模の地震が発生した例は1例
1949年12月26日 M6.3 7分後にM6.4 (今市地震)
・同じ規模が続いた例は2例
1943年3月4日 M6.2 0.40日後にM6.2 (鳥取)
1956年12月22日 M6.0 1.13日後にM6.0 (三宅島)
ウ)M≧5.5 の地震の場合
内陸地殻内の地震の多くが、第四紀火山(最近の地質時代に活動した、あるいは現在活動している火山:注)の近傍で発生している(清野他, 1995)。M≧5.5の地震については、約50%(76例/153例)が第四紀火山から30km以内に発生している。このうち、規模が近い事例( Mf−M1≦0.3:Mfは最初の地震のM、M1は後続の最大地震のM、M1>Mfの場合も含む、以下同じ)は約17%(13例/76例;表1−1、2、図2)発生しており、その他の地域の割合約5%(4例/77例;表1−3、図2)よりも有意に高い(それぞれの地域の確率が同じであるという仮説は危険水準約1%で棄却できる)。このことから、第四紀火山から30km以内は規模の近い地震が起こり やすい性質があるといえる。また、ここで注意すべき前震−本震型の地震活動は8例あり、第四紀火山から20km以内の活動が約75%(6例/8例;表1−1)である。第四紀火山から20km以上の地域でも、前震−本震型が2例( l:熊本地方の地震とo:三河地震;表1−2,3)ある。
図1 内陸地殻内の地震 M≧5.5 h≦30
km 1926− 1995年
円は第四紀火山から20kmの範囲を示す。日本列島を囲む多角形は「内陸」の範囲を表す。
図2 内陸地殻内の地震( Mf−M1≦0.3)
円は第四紀火山から20kmの範囲を示す。
表1−1 最初の地震Mfと後続の最大地震M1の規模差が近い(Mf−M1≦0.3)地震活動 (内陸地殻内の地震)
(第四紀火山から20km以内:10例)
表1−2 最初の地震Mfと後続の最大地震M1の規模差が近い(Mf−M1≦0.3)地震活動 (内陸地殻内の地震)
(第四紀火山から20-30km:3例)
表1−3 最初の地震Mfと後続の最大地震M1の規模差が近い(Mf−M1≦0.3)地震活動 (内陸地殻内の地震)
(第四紀火山から30km以遠:4例)
注:第四紀火山は日本の火山(第1版; 1968,第2版; 1981, 地質調査所)を基礎にし、北海道については、中川他(1995)による修正結果をいれて改訂したものである。個々の火山の緯経度は、日本の火山(第1版)の火山文献選集(地質調査所, 1968)、日本活火山総覧(第2版)(気象庁,,1996)、大谷他(1993)による。今後の岩石の年代測定により、第四紀火山の認定結果が、修正される可能性がある。
A 内陸地殻内の地震が発生したときの判定法
・M≧6.4ならば、その地震を本震とみる。
・6.3≧M≧5.5かつ第四紀火山から20km以遠ならばその地震を本震とみる。しかし、これらの地震が複数個発生した時、あるいはその付近の海域で海溝型のM8級地震が過去2〜3年の内に発生していれば、前震活動の可能性を考慮する。
・6.3≧M≧5.5 かつ第四紀火山から30km以内ならば、最初の地震に規模が近い地震が起こりやすい。第四紀火山から20km以内ならば、前震活動の可能性を考慮する。
2)内陸マントル上部の地震
@内陸マントル上部の地震の独立44事例に基づく事実
(M≧6.0、 30km<h≦80km、 1926-1995年:図3)
ア)最初の地震の規模を超える地震が続いたことはない。
イ)最初の地震と後続の最大地震の規模が近い事例(Mf−M1≦0.3)は、1例(1/44=2%)(表2、図3)である。
表2 最初の地震Mfと後続の最大地震M1の規模差が近い(Mf−M1≦0.3)地震活動
(内陸マントル上部の地震)
A 内陸 マントル上部の地震 が発生したときの判定法
3)海域の地震
@海域の地震の独立149事例に基づく事実
(M≧6.5、 h≦80km、1926-1995年:図4)
ア)M≧7.0の地震の場合
M≧7.0の地震の後により大きな地震が起きた事例としては、1978年3月25日択捉島沖の地震(M7.3)の前震(M7.0)の一例だけであり、M7.3の前3日間にM6.5、6.6、6.7、7.0の前震が発生した。
イ)M≧6.5 の地震の場合
最初の地震と後続の最大地震の規模が近い事例( Mf−M1≦0.3)は18例(18/149=12%)ある(表3及び図5)。
なお、海域の地震では三陸沖及び択捉沖の一部等、同規模の地震が続けて起こりや
図3 内陸マントル上部の地震 M≧6.0 30km<h≦80km 1926−1995年
日本列島を囲む多角形は「内陸」の範囲を表す。
すい領域(続発領域)が経験的に把握されており、それを図5に併せて示した。M≧6.5の約31%(46例/149例)が続発領域内で発生しており、最初の地震と後続の最大地震の規模が近い事例( Mf−M1≦0.3)は約67%(12例/18例)が続発領域内に発生している(表3−1、図5)。続発領域内における規模が近い地震が起こる割合約26%(12例/46例)は、それ以外の地域での割合約6%(6例/103例;表3−2)よりも有意に高い(それぞれの地域の確率が同じである仮説は、危険水準1%以下で棄却できる)。また、前震−本震型の活動は続発領域内で9%(4例/46例)あり、それ以外の領域では、すべて後続地震の規模が小さく、本震−余震型と見なせることがわかる。
表3−1 最初の地震Mfと後続の最大地震M1の規模差が近い(Mf−M1≦0.3)地震活動(海域の地震)
(続発領域内:12例)
表3−2 最初の地震Mfと後続の最大地震M1の規模差が近い(Mf−M1≦0.3)地震活動(海域の地震)
A 海域 の地震(M≧6.5, h≦80km )が発生したときの判定法
・M≧7.0 ならば、その地震を本震とみなす。
・6.9≧M≧6.5 かつ続発領域外なら、その地震を本震とみなす。
・続発領域で6.9≧M≧6.5の地震が複数発生し、地震規模が次第に大きくなってくると前震活動の可能性を考慮する。
図4 海域の地震 M≧6.5 h≦80km 1926−1995年
三陸沖及び択捉沖の多角形は、「続発領域」を表す。
図5 海域の地震と続発領域(
Mf−M1≦0.3
)
三陸沖及び択捉沖の多角形は、「続発領域」を表す。
過去に発生した本震−余震型の地震活動等を統計的に処理することにより、余震活動を把握するモデル、地震発生数とMの関係を把握するモデルが報告されている。(2)節では、これらの統計モデルとその組み合わせによる余震確率評価の手法について記述する。
余震活動を把握する手法としては、改良大森公式とETAS(Epidemic Type Aftershock Sequence)モデルが技術的に確立されている。
ETASモデルは余震活動の評価だけでなく、背景の地震活動をも正当に評価でき、群発的な活動の評価にも活用できる。この意味で改良大森公式を拡張したモデルといえるが、余震のM値も必要とする。ここでは、しばらく改良大森公式による手法を検討し、本項4)節にETASモデルの適用について述べる。
ここで述べる余震確率評価とは、ある規模の余震がどのような頻度で発生するかを確率的に表現し、評価することである。改良大森公式は余震の数についての予測であり、これに余震の規模を加味して確率評価するためには、Gutenberg-Richterの式と組み合わせる必要がある。
1)Gutenberg-Richterの法則
大きい余震ほど発生度数が少ないことが知られている。定量的に言うと、余震のMが大きくなるにつれ、その数は指数関数的に減る。この経験法則をGutenberg-Richterの法則(Gutenberg and Richter, 1941)という。数式で表現すると、規模がMからM+dMの間にある余震数をn (M) dMとすると
または
である。ここで、logは常用対数を表す。この式はGutenberg-Richterの式(以下、「GR式」という)と呼ばれる。 a、bは定数であり、aは余震活動全体の活発さを表すパラメータである。また、bは全余震中の小さい地震と大きい地震の数の比と関係が深く、それが大きいことは大粒の地震が相対的に少ないことを意味している。(1)から、MをX軸、log n ( M ) をY軸としてグラフにプロットすれば直線になり、その直線のY切片が a、傾きが bに対応していることがわかる。
n (M) の代わりに、規模がM以上の余震の積算個数 N ( M)
が利用されることもある。(3)は(2)を用いて
ここで、β = b ln 10、また ln は自然対数である。(4)の両辺の常用対数をとり、A≡a−logβ とすると
となることがわかる。
実際の地震観測においては、Mが小さくなるにつれ、地震を検知することが困難になる。そのMの検知下限をMthとすると
となり、( M−Mth) が指数分布をしていることがわかる。確率密度関数に翻訳するには、n ( M ) を MについてMth から∞まで積分したときに 1に規格化されるように
とすれば十分である。(7)は(2)を規格化した式ということができ、余震活動全体の活発さを示すaは含まれていない。
2)改良大森公式
余震活動は時間とともに単調に減少していく。定量的には、単位時間当たりの余震数ν( t ) は、K、c、pをパラメータとして
と表される。ここで t は本震発生時を起点とした経過時間である。(8)は改良大森公式(宇津, 1957、Utsu, 1961、以下「MO式」という)と呼ばれる。p = 1の場合は単に、大森公式(大森, 1894)と呼ばれる。pは時間減衰の程度を表し、通常 1またはそれよりやや大きい値をとる。 cは本震発生直後の複雑な様相を適当に丸め込む役割を演じ、通常、0.1日以下である。Kは、pとcが一定の時、余震の発生総数に比例する。発生総数は個々の活動によるばらつきが大きく、Mthにも依存するので、例えば、
とし、異なる活動では、log KM3等を比較する必要がある。(8)式から、log tをX軸、logνをY軸としてグラフにプロットすれば、本震から十分な時間が経過した後( t >> c)は直線になり、その直線の傾きが−p、X切片がほぼ(log K) / pに対応していることがわかる。
余震が起きた時刻だけに注意を払い、横軸に本震からの経過時間、縦軸に積算地震回数を描くと、階段状のグラフが得られる。余震の起こり方は圧倒的勢力を持つ本震だけで決められる、つまり、次の余震はそれ以前の余震の起こり方に依存しないと仮定すると、余震の発生は非定常ポアソン過程に従うことになる。この場合、MO式は、単位時間を充分に小さく取ることにより、余震発生確率と解釈できる。これを式で表現すると、時間 t〜t+dtの間に余震が発生する確率λ( t ) dtは
と表される。
また、実際の余震活動におけるK, p, cを求めるためには最尤法を用いる。この場合の対数尤度関数 ln L は以下の式で与えられ(Ogata, 1983)、これを最大とするK、p、cの値(最尤推定値)を求めることで推定できる。
ここで、Nは、本震後の経過時間T1〜T2までに観測された余震数であり、ti ( i =1,2,…,N)
は、各余震の発生時刻である。また、A( T1, T2 )は、MO式の時間積分の1/Kである。
3)GR式とMO式の組み合わせによる余震活動の確率評価手法
GR式とMO式とを組み合わせると、余震活動を確率的に評価することができる。時間 t 〜 t+dt の間に発生する余震が、MについてはGR則に従って分配されているとすると、t 〜 t+dt の間にM〜M+dMの地震が発生する確率λ(M, t ) dM dt は、(7)を用いて
で与えられる。t 〜 t+dtの間にM以上の余震が発生する確率Λ( M,t) dt は(13)をマグニチュードについてMから∞まで積分して
また、指数μのポアソン分布の期待値はμであるという性質を利用すると、T1からT2までの間におけるM以上の余震回数の期待値(発生予測数)N(T1, T2)は、MO式の時間積分(12)を用いて
で与えられる。さらに、本震後の経過時間 T1から T2までの間にM以上の余震が1個以上発生する確率Qは、ポアソン分布の公式を用いて
と表せ、 (15)が余震の発生予測数、(16)が余震発生確率を計算する式となる。
ここで、各変数の意味を改めて説明しておく。K、p、cは余震活動の特徴を規定するMO式のパラメータで、実際の余震活動を最もよく説明するように決められる。Kは余震の発生総数にほぼ比例する。pは時間減衰の程度を表す。cは本震発生直後の複雑な様相を補正する。βはGR式の
bと β=b
ln 10 ≒ 2.30b の関係にある。なお、bは全余震中の小さい余震と大きい余震の数の比と関係が深く、それが大きいことは大粒の地震が相対的に少ないことを意味している。MthはMO式あるいはGR式で処理した最小の地震の規模で、
Mth以上の規模の余震はもれなく観測されていることが前提である。T1、T2は余震発生確率を評価する時期の始めと終わりで、いずれも本震発生後の経過時間である。A
( T1, T2 )は、(12)で与えられている。なお、(16)は条件に合う余震がちょうど1回発生する確率ではなく、1回以上発生する確率を表していることに注意しなければならない。
4)ETASモデルの適用
実際の地震活動は、本震−余震型の地震活動だけで表現できるものではなく、群発地震、二次余震や他地域との関連等、複雑多岐にわたるものである。
ETASモデルは、より高度な近似として、いかなる地震も多かれ少なかれ付随する余震活動を持つという考えに基づいたモデルであり、一定地域の地震活動や長期間の地震活動の解析に有効と考えられている(Ogata, 1986、1988、1989、1992、1994)。
狭義の余震活動の把握という観点では、二次余震に伴う余震活動の活発化と余震活動が順調に減衰しているか否かの把握が特に重要である。二次余震に伴う活発化をMO式で把握する場合には、本震の余震活動と高々2〜3の二次余震系列の活動を重ね合わせた拡張モデルを考えることができる。二次余震活動が有意か否か、 p値が異なるのか否か等の解析は、これらの異なるモデルの適合度を情報量規準AIC(Akaike, 1974)で比較することにより可能となる(Ogata, 1983、Ogata and Shimazaki, 1984、Matsu’ura, 1986、Utsu et al., 1995)。
しかし、活動がさらに複雑化している場合には、特に余震活動が順調に減衰しているか否かの解析に関して、単一のMO式や上記のような拡張モデルを用いた手法は、どの期間の解析を行うかによって、予測確率が変化することがあり、客観的な把握が難しい。ETASモデルにおいては、ある時点で余震活動が変化があったか否かを客観的に把握することが可能である。
ただし、これらの解析を行うことにより把握された余震活動の静穏化等は、それ自体が何を表しているか解明されていない点があるが、このような余震活動の把握は事例を積み重ね、研究の発展に資することが重要である。
(2)節で述べた統計モデルによる確率評価手法を実際に適用する場合、本震発生間もない時に余震活動のパラメータ(K, c, p, b)を安定して求めることができるか否かという現実的な問題がある。余震活動の平均的なパラメータがわかっていれば、データが揃うまでの事前情報として、これを有効に利用できる可能性がある。このため、GR式とMO式を組み合わせによる余震の確率モデル(以下、「余震確率モデル」という)についての具体的なパラメータや過去の事例との比較、その適用範囲等を検討する。
1)過去の活動における平均的なパラメータ
過去の地震活動における余震確率モデルの平均的なパラメータについては、次の文献による値がある。なお、Kは検知限界Mthに依存し、これを揃えた値についても個々の活動によるばらつきが大きいので、ここでは平均的な値は掲載していない。
表4 日本周辺の地震の余震パラメータ(中央値)
表4によれば、最近の解析結果において、b値は1.0程度、c値は0.02〜0.06程度、p値は1.1程度の値が得られている。MO式のパラメータは、それぞれ独立に求められるものではないので、解析時にはそれぞれのパラメータのトレードオフがある。今、仮に cと pに平均的なパラメータ c', p'' を仮定すると、平均的なパラメータ(K, c', p' )と個別パラメータ(K, c, p)を比較することができ、どちらが妥当かの判断ができる。
具体的には、
のそれぞれのモデルのAICを比較することにより、AICが小さいモデルを用いればよい。表4の文献では、このような検討を行っていない。また、表4において解析されている地震は、余震数が少ない場合も少なくない。このことは、震源が遠かったことや、地震検知能力が低かった時代のデータを扱っていることにもよる。これらから、余震活動の活発さについては、網羅的に解析した平均像が得られていないといえる。そのばらつきは自然現象の本質として大きいのかも知れない。しかし、平均像を得ることは、そのパラメータから平均的な余震活動、例えば本震のM(以下、Mo)に対する最大余震がどのくらいなのか、または、最大余震が本震からどのくらいの期間で起こることが多いか等の情報を得ることができ、余震に関する防災計画の策定時にそれを考慮するための情報として、また、これとの比較によって、当該活動がどの程度活発な余震活動なのかを客観的に評価する上でも重要である。
余震活動の平均像を求める際には、(1)節で示したような地域分けや地震発生のタイプ(プレート内やプレート間地震)に分けて事例を収集するとともに、余震活動が活発な活動から不活発な活動までを網羅的に考え、この中からさらにタイプ分けができるか等の検討が必要である。具体的に検討する方法を次に示す。
@K値による方法
(9)で定義したlogKM3(当該活動のK値をあるしきい値に直したもの)等で異なる余震活動を比較することができ、この値とMoの関係を調査することにより、余震確率評価に資することができる。
A余震活動規格化パラメータによる方法
MO式のKは、余震活動の MthとMo及びb値に依存しているので、次のような規格化を考える。すなわち、
で、余震活動を特徴づける(Utsu, 1970、Reasenberg and Jones, 1989,1994、阿部, 1991,1994、松浦, 1993、静岡県地震対策課, 1993)。これから、
が成り立つことがわかり、この関係を用いると、(16)は、
と表現できる。
B本震と最大余震のM差による方法
一般に余震群はGR式に従うが、本震Moは、GR式から大きな方に離れていることが多い(宇津, 1957)。本震Moと最大余震Mm(以下同じ)の差D(= Mo−Mm)を調べることにより、余震確率評価に資することができる。具体的には以下の手順による。
まず、MO式から、時間 0〜T∞におけるM≧Mthの余震の予測数は、(15)でM = Mthとおいて、K A ( 0, T∞)となる。一方、同じ時間におけるGR式から予測される余震数をNth(0, T∞)として、これらが等しいとおけば、
ここで、T∞は、余震活動終息までの期間であるが、p≦1.0の時はNth(0,∞)が発散してしまうので、T∞は十分大きな値をとることで代用する必要がある。
(20)より
このことを用いて、(16) は、
と表現できる。
Aの方法は本震Moに依存しないαを求め、地域性や地震のタイプによる各地震の差異を見出そうとする考えに基づくものである。Dについては、宇津(1957)が平均として1.4を与え、その後にMoとの関係で、Utsu(1969)が
を求めている。この式のDは、 Moが大きくなるほど小さくなり、このことは、本震の規模に対する余震活動の活発さは、Moが大きくなるほど相対的に活発になる可能性を示唆している。ただし、(23)は余震が観測されない地震にも観測レベル以下の余震は発生しているという考えに基づいており、余震が観測された地震のみを扱う場合とは区別する必要がある。
Bの方法は、Dのばらつきが非常に大きいことや、p≦1.0の時に、A ( 0, T∞)の計算においてT∞にどの程度の値を入れるのか等の問題がある。現実に当該活動において計算する場合には、本震Moによる余震活動が、背景の地震活動レベルに収まる期間を調査し、それに応じて決まった値等を使用すればよいが、Dに依存しない余震活動の活発さの指標を考えるために、
とし、これを(21)に代入すると、
となる。最大余震Mmは、(20)の関係から
により推測できる。この関係を用いると、(16)は、
と表現でき、Bの方法を拡張した形として、D及びφと地域の特性や地震のタイプ分け等との関係を調査することにより、余震確率評価に資することができる。
なお、ここで述べた方法以外に、余震回数が負の二項分布モデルに従う(岡田,
1979)ことを利用して地域の特性を調べる方法などもある。これらの手法との比較検討も今後進める必要がある。
2)過去の活動と平均的なパラメータによる確率の比較
1)節の各方法によって計算される確率は、全く同じ数字になるものではない。ここでは、それらと過去の事例を比較する。
@過去の事例と余震発生確率
余震確率モデルに適用する平均的なパラメータとして、以下の設定を行う。
試算パラメータθ:方法Bの余震活動の活発さを表すパラメータD値を用い、 b'、c'、p'は、松浦(1993)の全国値を当てはめ、D=1.2(θ1)として、M6.0の本震に対するM5.0以上の余震が1回以上発生する確率を、また、D=1.1(θ2)として、M7.0の本震に対するM6.0以上の余震が1回以上発生する確率をそれぞれ試算。
試算パラメータψ:方法Aを用い、松浦(1993)のプレート内地震の中央値(α=−2.36:ψ1)を当てはめ、M6.0の本震に対するM5.0以上の余震が1回以上発生する確率を、また、プレート間地震の中央値(α=−2.08:ψ2)を当てはめ、M7.0の本震に対するM6.0以上の余震が1回以上発生する確率をそれぞれ試算。
これらのパラメータを用いてT1= 0,T2= 1, 3, 7, 10, 30, 60, 90(日)の場合の試算結果と過去事例(内陸地殻内の地震、海域の地震)との比較を行った(表5−1)。
表5−1の過去の事例は、(23)のような本震Moと余震活動との関係を考えれば、厳密には比較できないが、試算パラメータによる確率と過去事例との全体的な傾向は一致している。この試算θにおけるDは、M別の過去の活動の平均に近い値であり、また、試算ψによる地震のタイプ毎の試算結果も過去の事例と近い値が計算されている。このことから、海域の地震と内陸地殻内の地震が地域的に違うのか、本震のMoの違いによるものなのかは判断できない。重要なことは、過去の事例とほぼ同じ確率が余震確率モデルの平均的なパラメータ b'、c'、p'を用いて、表現できることである。
なお、この試算θとψを比較すると、試算θにおけるD=1.2という値自体は、本震Mo=6.0の時、最大余震Mm=4.8程度の活動を意味するパラメータであり、比較的大きな余震の確率を計算する場合、試算ψ(方法A)の方が、試算θ(方法B)よりもやや大きい数値になることがわかる。
表5−1 過去事例と余震発生確率(試算)
表5−2 過去事例と最大余震発生確率(試算)
A過去の事例と最大余震発生確率
大きな余震が起きた場合、それが最大の余震であるかどうかの評価は重要な事項である。最大余震の発生もやはり確率的な表現を使って表すことができる。「最大余震の発生確率」とは、M*以上の最大余震が本震発生後T1日後からT2日までの間に発生する確率Rのことであり、以下のとおり与えられる。
R = Pr{時間区間
[T1, T2]で最大余震が起き、そのマグニチュードがM*以上である}
=Pr{全余震期間 [ 0, T∞]中の最大余震がマグニチュードがM*以上である}
×Pr{区間 [ 0, T∞]中の最大余震が [T1, T2]で起きる}
≡ 第1項 × 第2項 (ただし、Pr{ }は、その事象の確率)
ここで、
となり、極限分布としての二重指数分布になる(Utsu,1961)。
(28)の計算に当たっては、 p ≦1.0の場合、先に述べたとおり、T∞に十分大きな値を与えて計算する必要がある。@節と同様に試算パラメータθ、ψを用いて試算した結果と過去事例を併せて表5−2に示した。
最大余震の発生確率は、表5−1における平均的パラメータの発生確率とほぼ同じである。しかしながら、大きな余震が起きた時点ではそれが最大余震であるということは難しい。
また、過去事例において用いた震源要素は、現在と比べると精度が落ちる情報も含まれており、余震とするかいわゆる広義の余震とすべきか判断に迷う地震もある。ここで得た情報としては、内陸の最大余震はほぼ1週間以内に起こる例が多く(過去72活動では被害を伴う可能性がある大粒の最大余震は20個発生しており、その内の18個は7.0日以内)、海域のそれはやや遅いということである。最大余震に言及する場合は、過去事例をあげる程度が望ましいと考えられる。
3)余震確率モデルの適用範囲と効率的な余震確率評価
これまでの過去事例では、最大余震は、内陸地殻内の地震の場合、30日以内に、海域の地震の場合、そのほとんどは90日以内に発生している。しかしながら、試算パラメータを用いた確率は、適用期間を長く延ばすにつれて確率は微増していく。例えば試算パラメータθ2において、本震発生後1年から、1,000,000日(約2,700年)の期間に最大余震が起こる確率は約8%にもなる。長い期間の確率は、主にKとpにより決められるが、これは、余震確率モデルの適用の限界を超えていると考えた方が自然である。
余震確率モデルの適用限界は、1891年濃尾地震(M8.0)の余震活動が、数十年以上MO式で表現できる事実も考えると、一概にいつまでとは決められないが、当面は長い期間については余震確率評価は見合わせ、パラメータが安定して求まった段階においても他のモデル(例えばETASモデル)と対比できる1月間位を目処と考えておくべきである。
また、逆に早い段階での確率評価は、試算の結果、特に短い期間の確率には、c、pの値は確率にはそれほど影響を与えない。D値は、(21)からK値と密接な関係にあり、特に短期間の確率においては、K値だけでも1)節で述べた方法(AICで比較する方法)を用い、他のパラメータに先駆けて求めることが望ましい。そのための方法の一つには、有感地震の時刻のデータを用いる方法がある。有感地震は内陸の場合ほぼM3程度以上の地震を捉えていると考えられる。有感地震の情報が使えない場合には、震源から離れた高感度地震計を用いて、一定以上の振幅を超える地震を記象した時刻等をデータとし、Kの値を求めることができる。
(1)余震確率評価の対象とする地震
余震確率評価は、被災地域の住民や事業所、防災機関等が応急対策や復旧活動を行う際の判断材料の一つとなる。そのため、余震確率評価は、余震が新たな被害を発生させる可能性がある地震を対象に行う必要がある。
そのような地震としては、被害が顕著になり始める最大震度5弱程度以上の地震を対象に考える。この地震が本震であるとすれば、余震は、局所的に同程度、場合によってはそれ以上の震度を観測する可能性がある。このため、陸域、海域を問わずこのような地震が発生した場合には、速やかに評価のための作業を開始する必要がある。
(2)当面とるべき余震確率評価手法
実際の地震活動は、地域、M、地震のタイプ等によって複雑な経緯をたどるものが多く、地震発生時における余震確率評価手法をすべて網羅することはできない。
本節では、ごく一般的な本震−余震型の活動の具体的な例として、M7.0の内陸地殻内の地震が発生した場合、次の各段階での仮定のもとに当面とるべき余震確率評価手法、余震に関する評価内容及びその評価結果の表現例について述べる。
実際の適用に当たっては、状況に応じて弾力的に適用していくとともに、解析技術に向上があった場合には適宜それを取り入れていく必要がある。
段階1
仮定:震源、M 、震度状況のみが把握できる。(地震発生時)
M7.0の内陸地殻内の地震は、「2(1)本震−余震型の見極め」により、この地震が本震であり、本震−余震型の活動に移行していくと判断できる。この段階は、余震の状況がつかめない状況にあり、次の段階に備えて余震確率評価作業のための準備(有感余震の発生状況、活動のモニターに適した観測点の選別等)を進める。
この段階での評価内容は、過去の統計事例である。
段階2
仮定:余震域がほぼ把握され、有感余震の発生状況がわかる。K値は精密には求まらない。(概ね数時間後)
有感地震の発生時刻等からMO式にあてはめる作業を進める。余震の積算回数図等から、ほぼ単一のMO式の型で表現できるかどうかを確認する。また、有感地震の時刻等を用い、MO式のパラメータ(平均パラメータ(K, c', p' )と個別パラメータ(K, c, p))を求める作業を進める。
この段階での評価内容は、余震の状況と過去の統計事例である。
Kが求まった場合には、平均パラメータ(K, c', p' )による確率評価を行うことができるが、p' を用いているので、ごく短期間の評価(例えば3日間)に限る必要がある。
段階3
仮定:有感地震等でMO式のK値のみ得られる。(概ね1日後)
段階2以降の作業により、2つのモデル(平均パラメータと個別パラメータ)のAICを比較することが重要である。
評価内容は、余震の状況及び過去の統計事例とともに、より適合度の良いモデル(ここでは平均パラメータ(K, c', p' ))による余震確率評価である。なお、一般に少数のデータでは、pの値に信頼がおけないので、長い期間の確率は大きくはずれてしまう可能性がある。この段階では、ごく短期間の評価(例えば3日間)に限る必要がある。
段階4
仮定:個別パラメータがほぼ安定して求まる。(概ね3日後)
この段階で、特に pが安定している場合には、長期間の評価が可能となり、このような評価は、例えば被災地における復旧・復興作業等に有効な情報と考えられる。この場合、内陸地殻内の地震の有感地震をほぼ表すM3.0以上の余震の発生予測回数も情報に盛り込むことも重要である。
評価内容は、段階3の内容の更新とともに比較的長い期間の余震確率評価、余震発生予測回数等である。
段階1〜4における評価結果の具体的な表現例を表6に示す。
表6において、確率を10%刻み(有効数字1桁)としているのは、その程度の誤差が見込まれるためである。
「1(2)基本的な考え方」で示したようにこれらの情報に加え、適宜有効な情報、すなわち「2.余震確率評価の手法」で示したような以下の事項等を臨機応変に付け加えることが重要である。
表6 内陸の地震における評価の具体的な表現例
(3)余震確率評価の理解を促進するための留意点
被害地震が自分が関わる地域に発生することは、人の一生の中でも1度あるかないかの経験である。被害地震が発生したときの地震に関する情報、とりわけ余震確率は当初なじみのない情報であるので、この情報の意味が地域の防災担当者等に十分に理解される必要がある。このため、できる限り多く、この情報に接する機会を設けることが重要である。また、防災担当者が被害地震発生時のみならず、事前の研修や教育において、この情報を有効に活用するノウハウを身につけることができるよう配慮することが必要である。
また、前節で示した手法とその手法を用いる場合の前提、余震活動の平均的な様相、確率の数字の意味等が適切に理解されるように解説を行うことが重要である。
さらに、余震確率評価を行うに当たって、情報の受け取り手である行政機関、住民、事業所等に広く意見やニーズを聴取することや、受け取り手がこのような情報を基にどのように反応するか予測するための調査を考慮することも必要である。
今回の余震確率評価手法に関する検討は、現在の地震学において技術的に確立している事項に基づいて検討した。しかし、現在地震に関する調査研究、観測方法及び解析技術は進展しつつある。特にETASモデルを用いた地震活動の評価は、本震−余震型から群発地震活動の客観的把握という面でも非常に重要であり、研究の発展を期待しつつその動向を踏まえ、利用方法等について継続的に検討を進める必要がある。
また、今回報告した手法についても、より精度が高い震源要素や新しい事例を折り込み、適宜平均パラメータの見直しやより早い段階における個別パラメータ推定手法の開発等を行う必要がある。
さらに3(3)節に述べた余震確率評価に当たっての受け取り手の調査とともに実際に余震確率評価を行った場合の調査も重要である。
今回は検討の範囲外としたが、住民が余震に関して大きな関心がある事項として、次の3つが考えられる。これらに対して、現状で考えられる対応も付記した。
@大きな余震の発生時期: 大きな余震が発生する時期を決定論的に予測することは現状では困難である。大きな余震の前に余震活動が低調になる、いわゆる「静穏化」現象がいくつか報告されている。しかしながら、静穏化が起きていて大きな余震が発生しない、または静穏化現象がなく大きな余震が発生した例もあり、大きな余震の確実な直前予測は現状では難しく、有用な予測情報として実用化するために事例の積み重ねが必要である。
A大きな余震が起きる場所:大きな余震が起きる場所は、余震域付近というレベルでは特定はできるが、より詳細に言及することは現状では困難である。余震域の端付近に起きる事例が多く見られるが、例外も少なくない。最近の例では、1997年3月26日の鹿児島県北西部の地震(M6.5)の最大余震(4月3日、M5.6)は震央分布からはやや西よりであるが、端とはいえない地域に発生した。今後3次元的な震源分布の解析による応力集中や本震の時に割れ残っている部分、断層の屈曲部分の抽出等の研究が必要である。なお、余震域から離れて起こる地震、例えば1944年の東南海地震(M7.9)の後の1945年の三河地震(M6.8)等のいわゆる誘発地震や広義の余震と言われる地震については、その関係自体が良くわかっていない。今後の事例の積み重ねや本震による応力分布の変化等を考慮した解析が必 要である。
B大きな余震により発生する特定の場所の揺れ:大きな余震が起きる場所がある程度予測できるという状況がない以上、現状では困難である。定性的に「余震域のある場所では震度いくつ以上になる可能性がある」旨の解説を行うことは必要である。
これらについては、住民が切に希望する事項でもあり、今後基盤的調査観測の推進による震源決定能力の向上及び事例の蓄積により、研究の発展に資することが重要である。
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