地震調査研究推進本部地震調査委員会では、これまでに、海域で発生するプレート間地震(海溝型地震)について長期評価を行い、公表してきました。しかし、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震を評価の対象とできなかったことを受け、従来の長期評価手法を見直し、新たな手法の検討を行うこととして、平成25年に「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」を公表したところです。新たな長期評価手法については検討途上ではありますが、相模トラフ沿いの地震についても、東京及びその周辺に大きな被害をもたらすことが懸念されることから、これまでに得られた新しい調査観測・研究の成果を取り入れ、相模トラフ沿いの地震活動の長期評価を改訂し、第二版としてとりまとめました。
相模トラフ沿いの地震活動については、平成16年に長期評価を行って以降、「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」や「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」等をはじめとして数多くの調査観測・研究が実施されてきました。その成果を取り入れ、以下の点に留意し、評価を行いました。
相模トラフは、相模湾北西部から房総半島南方を経て、日本海溝と伊豆・小笠原海溝境界にあたる三重会合点に至る全長約300kmの溝状の地形です。相模トラフ沿いで発生する大地震は、本州の載る陸のプレートと、南方から沈み込むフィリピン海プレートの境界がすべることによって発生します。また、この領域では、フィリピン海プレートの内部や、フィリピン海プレートとその下に沈み込む太平洋プレートの境界、太平洋プレート内部でも地震が発生しています(図1)。
図1 相模トラフ沿いで発生する地震の模式図
①:活断層等で発生する浅い地震(深さ0~20km)
②:陸のプレートとフィリピン海プレートの境界付近で発生する地震(深さ20~50km)
③:フィリピン海プレート内部で発生する地震(深さ20~50km)
④:フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界付近で発生する地震(深さ50~100km)
⑤:太平洋プレート内部で発生する地震(深さ50~100km)
前回の評価では、「元禄型関東地震」(M8.2程度)・「大正型関東地震」(M7.9程度)・「その他の関東地震」(M6.7~7.2)と分類していました。しかし、この地域で発生する地震に多様性が見られることから、今回の評価では固有地震として扱わず、「相模トラフ沿いのM8クラスの地震」(図1の②)及び「プレートの沈み込みに伴うM7程度の地震」(図1の②~⑤)と分類することとしました。なお、陸のプレート内(地殻内)で発生する地震(図1の①)は、本評価では対象としていません。
相模トラフ沿いのM8クラスの地震の評価対象領域は、地形(幾何形状)の変化、力学条件の変化、既往最大地震の震源域、現在の地震活動等を考慮し、図2の赤太線で囲まれる領域としました。図2の赤太線で囲んだ領域全体がすべることで発生する地震を、相模トラフにおける「最大クラスの地震」と想定しており、推定される地震の規模はM8.6となります。
プレートの沈み込みに伴うM7程度の地震の評価対象領域は、観測記録や歴史記録等による調査研究を参照し、被害地震が発生すると考えられる領域としました(図3の太赤線)。
図2 相模トラフ沿いのM8クラスの地震の評価対象領域
図3 評価対象としたプレートの沈み込みに伴うM7程度の地震
太赤線で囲まれた範囲が評価対象領域を示す。
細赤線は最大クラスの地震の震源域を示す。
●:本評価で対象とした地震 ●:大正関東地震(1923)の余震
○:前回評価対象とした地震 ★:M8クラスのプレート境界地震
Ⅰ.相模トラフ沿いのM8クラスの地震
相模トラフ沿いのM8クラスの地震に伴い生じる地形・地質データ(図4)から、地震の発生間隔を推定した結果、180~590年となり、歴史記録や測地データから推定した発生間隔とも調和的でした。この発生間隔とばらつき、及び最新活動(大正関東地震(1923年))からの経過時間90年を用いて、相模トラフ沿いのM8クラスの地震の今後30年以内の発生確率をほぼ0%~5%と推定しました。
なお、元禄関東地震(M8.2)相当またはそれ以上の規模の地震については、平均発生間隔は2,300年程度であり、今後30年以内に発生する確率はほぼ0%と推定されました。
Ⅱ.プレートの沈み込みに伴うM7程度の地震
プレートの沈み込みに伴うM7程度の地震については、特定の震源域で繰り返し発生する地震として扱うことが難しいため、図3の太赤線で囲まれる領域内のどこかで発生するものとして発生確率を推定しました。その結果、平均発生間隔は27.5年、今後30年以内の発生確率は70%程度と推定されました。
本評価では、地震の多様性や情報の不確実性を考慮した新たな評価手法を試行しました。しかし、この新たな評価手法は検討途上のものであり、以下の課題が残されています。
長期評価の信頼性を向上させるため、今後、これらの点について研究を推進していきます。
* 従来の手法でH26年1月に時点における確率のみ評価し直したもの
** データの不確実性を統計的に評価したこと等による前回からの評価の変化