地震波速度とは地震波が地面の中を伝わる速さのことです。では、地震波速度を知ることでどんなことがわかるのでしょうか?
まず、地震波にはいろいろな種類があることをお話しします。地震波には、地球の内部を伝わる実体波と、地球の表面だけを伝わる表面波があります。実体波だけに限ると、性質の違うP波とS波があります。P波はS波より波の伝わる速さ(地震波速度)が速く、地震が起きた時に最初に伝わってきます。また、地震波速度は場所によって異なっており、基本的には、地中深くなるほど速くなります。例えば、P波が固い岩盤(地震基盤)の上面を伝わるときは、おおよそ5~7km/s、S波ではおおよそ3~4km/sとされていますが、もう少し地表に近い層(工学的基盤の上面)などでは、S波はおおよそ数100m/sとかなり遅くなっています(7月号の用語解説「地震基盤と工学的基盤」も参照ください)。
では、地面の下の地震波速度を知ることでどんなことがわかるのでしょうか?ここでは2つの例を挙げます。
まず第1に、地震の起きた場所(震源と呼びます)を決めることができます。日本全国には1,000点以上の地震の波を記録する地震計が置いてあり、リアルタイムで気象庁に送られています。地震が起こると地震波形からP波とS波の到着時間を正確に読み取ります。地中の地震波速度構造がわかっていると、波の伝わってきた時間を戻すことで、地震が起きた場所と時間を求めることができます。皆さんが目にする地震活動図はこのようにして計算された震源を描いています。
第2に、地球の中がどのような物質で、どのように構成されているかを大まかに知ることができます。一般に固いものや温度の低いものほど地震波速度は速くなります。ですから、地震波速度の分布を見れば地球の内部構造が推定できるのです。三次元地震波速度構造からプレートが見える、という話を聞いたことがありませんか?日本海溝から日本列島の下に沈み込んでいる太平洋プレートは、温度の低い地表から、高い地球の内部に沈み込んでいます。このため、プレートはまわりより温度が低く、地震波速度が速い場所としてイメージすることができるのです。他にも火山の下では噴火時の溶岩の供給源となるマグマだまりの様子を地震波速度構造から推定する研究も行われています。マグマだまりはまわりより温度が高いので、地震波速度が遅い場所としてイメージできます。
地震波速度を調べるためにはさまざまな方法があります。例えばボーリングなどによって直接的に調べる方法もありますが、広い範囲でなおかつ地面の奥深くまでそのような方法で調べるのは困難です。そこで、複数の地点でキャッチした地震計の観測データの解析から、地面の中がどのような地震波速度の構造になっているかを調べます。解析に用いる観測データは、自然地震が発生した際のデータを用いる場合や、人工的に地震を発生させた場合、また、常時微動と呼ばれる常に動いている地面のわずかな揺れを解析する方法など、さまざまな方法が知られています。