平成18年12月18日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


曽根丘陵断層帯の長期評価について


 地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
 地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、平成17年4月までに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。

 その後、「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月30日 地震調査研究推進本部)の中で、新たに基盤的調査観測の対象とすべき12の活断層帯が挙げられた。
 今回、このうち曽根丘陵断層帯について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

 評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。



平成18年12月18日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

曽根丘陵断層帯の評価

 曽根丘陵断層帯は、甲府盆地の南縁に位置する曽根丘陵に沿って分布する活断層帯である。ここでは、平成17年度に産業技術総合研究所によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

 曽根丘陵断層帯は、山梨県甲州市から笛吹(ふえふき)市、甲府市、中央市を経て、西八代郡市川三郷町(いちかわみさとちょう)に至る断層帯である。全体の長さは約32kmで、概ね北東−南西方向に延びる。本断層帯は断層の南東側が北西側に対して相対的に隆起する逆断層である。 (図1-1図2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

 曽根丘陵断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は、概ね1m/千年であった可能性があり、約1万年前以後に活動があったと推定される。野外調査から直接得られたデータではないが、経験則から求めた1回のずれの量と平均的なずれの速度に基づくと、平均活動間隔は、概ね2千−3千年の可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

 曽根丘陵断層帯は、全体が1つの区間として同時に活動する場合、マグニチュード7.3程度の地震が発生する可能性がある。その際には、断層近傍の地表面では断層の南東側が北西側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓(たわ)みが生じる可能性がある(表1)。本断層帯では、活動時期が十分特定できていないことから、通常の活断層評価とは異なる手法により地震発生の長期確率を求めている。そのため信頼度は低いが、将来このような地震が発生する確率は、表2に示すとおりであり、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる(注1−3)。

4.今後に向けて

 曽根丘陵断層帯では、副次的な断層以外で活動時期に関する資料が得られていない。したがって、最新活動時期を含む過去の活動について精度の良い資料を集積させる必要がある。
 また、曽根丘陵断層帯の西方に位置する糸魚川−静岡構造線断層帯の活動との関連性についても検討する必要がある(図1-2)。



表1 曽根丘陵断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
注4
根  拠
注5
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を構成す
   る断層
塩山−勝沼付近の断層(注6)、一宮−八
代付近の断層(注6)、曽根丘陵断層群

  文献5、6による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状
地表における断層帯の位置・形状
 断層帯の位置
 (北東端)北緯35°43′東経138°46′
 (南西端)北緯35°33′東経138°30′
 長さ    約32km






文献5、6による。
位置及び長さは図2
から計測。
地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置   地表での長さ・
                   位置と同じ

 上端の深さ  0km
 一般走向   N60°E








 傾斜     約30°南東傾斜
          (深さ1km程度以浅)


 幅      不明
















上端の深さが0kmで
あることから推定。

地形の特徴から推定。
長さは、主たる走向方
向に塩山−勝沼付近
の断層の北端を投影
させて計測。
主たる走向は一宮−
八代付近の断層、曽
根丘陵断層群の主要
な方向。

傾斜は文献3から推
定。


地震発生層の下限の
深さは20km程度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
南東側隆起の逆断層
文献1、3、4、8−11
などによる。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
概ね1m/千年(上下成分) 文献5、7、8による。
  (2) 過去の活動時期 約1万年前以後 文献7に示された資料
から推定。
説明文2.2.(2)参照。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量   2−3m程度
             (上下成分)
平均活動間隔   概ね2千−3千年



断層の長さから推定。

平均的なずれの速度
と1回のずれの量から
推定。
  (4) 過去の活動区間 断層帯全体で1区間
断層の位置関係、形
状等から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間    断層帯全体で1区間

地震の規模   マグニチュード7.3程度
ずれの量     2−3m程度(上下成分)




断層の位置関係、形
状等から推定。
断層の長さから推定。
断層の長さから推定。


表2 曽根丘陵断層帯の将来の地震発生確率(ポアソン過程を適用)
 
項  目   将来の地震発生確率等
注7
 信頼度 
注8
備  考

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

 

1%
2%
3−5%
10%

発生確率は文献2による。

注1: 曽根丘陵断層帯では、最新活動時期は約1万年前以後と求められている。しかし、最新活動時期の最近側の値を特定することはできなかったため、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の確率を求めることができない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、このような更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしていることから、ここでは、ポアソン過程を適用して断層帯の将来の地震発生確率を求めた。しかし、ポアソン過程を用いた場合、地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり、本来時間とともに変化する確率の「平均的なもの」になっていることに注意する必要がある。
 なお、グループ分けは、通常の手法を用いた場合の全国の主な活断層のグループ分け(注2参照)と同じしきい値(推定値)を使用して行なった。 
注2: 地震調査委員会の活断層評価では、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間の地震発生確率について、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
 なお、2005年4月時点でひととおり評価を終えた98の主要断層帯のうち、最新活動時期が判明しており、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の確率を求めたものについては、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間に地震が発生する確率の割合は以下のとおりとなっている。
30年確率の最大値が0.1%未満 : 約半数 
30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 : 約1/4
30年確率の最大値が3%以上 : 約1/4
(いずれも2005年4月時点での算定。確率の評価値に幅がある場合はその最大値を採用。) 
 
注3: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。30年確率の最大値は平均活動間隔が2千年の場合は12%程度、3千年の場合は8%程度である。
注4: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
  ◎:高い、○:中程度、△:低い
注5: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
   文献1:平川(1992)
   文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
   文献3:加藤ほか(投稿中)
   文献4:活断層研究会編(1991)
   文献5:丸山・斉藤(2005)
   文献6:中田・今泉編(2002)
   文献7:産業技術総合研究所(2006)
   文献8:澤(1981)
   文献9:山梨県(2002)
   文献10:山梨県(2003)
   文献11:山梨県(2004)
注6: 本断層帯の中で曽根丘陵断層群の北東方にあり、活断層研究会編(1991)、中田・今泉編(2002)が甲府盆地の東縁に図示した複数の無名の断層については、それぞれの断層が分布する地域名を基に塩山−勝沼付近の断層、一宮−八代付近の断層と仮称する。
注7: 評価時点はすべて2006年1月1日現在。なお、計算にあたって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注8: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。


(説明)

1. 曽根丘陵断層帯に関するこれまでの主な調査研究

 曽根丘陵断層帯は、甲府盆地の南縁に位置する曽根丘陵に沿って分布する活断層帯である。
 曽根丘陵断層帯については、初めに田中(1925)が鉱泉の分布及び地形の特徴から「曽根丘陵列」と「曽根断層崖」としての断層運動を指摘した。花井(1934)は、韮崎泥流堆積物が曽根丘陵北縁部と、甲府盆地の地下数十mの深さに分布することから、韮崎泥流堆積物の高度差は新期の断層運動によるものであると指摘した。甲府盆地周辺の活断層は、活断層研究会編(1980)によって全体像が示され、その後、澤(1981)によって曽根丘陵周辺の地形分類と詳細な活断層の分布が示されている。本断層帯の第四紀後期における活動性については、澤(1981)、平川(1982,1992)、曽根丘陵研究グループ(1991)、海野(1991)、内藤・桂田(1992)、丸山・斉藤(2005)などによる地形・地質調査や断層露頭調査、山梨県(2002,2003,2004)、加藤ほか(投稿中)による地下構造調査がある。産業技術総合研究所(2006)は、本断層帯を対象として、ボーリング調査、トレンチ調査などを行い、平均変位速度や活動履歴などについて新たな知見を得ている。本断層帯の詳しい位置は、活断層研究会編(1991)、下川ほか(1995)、今泉ほか(1998)、池田ほか編(2002)及び中田・今泉編(2002)に示されている。

2.曽根丘陵断層帯の評価結果

2.1 曽根丘陵断層帯の位置及び形態

(1)曽根丘陵断層帯を構成する断層

 曽根丘陵断層帯は、山梨県甲州市から笛吹市、甲府市、中央市を経て、西八代郡市川三郷町の東部に至る断層帯である(図2)。本断層帯は、塩山−勝沼付近の断層(注6)、一宮−八代付近の断層(注6)、曽根丘陵断層群から構成される。本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、下川ほか(1995)、今泉ほか(1998)、池田ほか編(2002)、中田・今泉編(2002)などで概ね一致する。ここでは、各断層の位置は中田・今泉編(2002)、丸山・斉藤(2005)に、また断層の名称は活断層研究会編(1991)によった。この中で本断層帯は、中田・今泉編(2002)によると、曽根丘陵断層群から一宮−八代付近の断層にかけては概ね「活断層」と示されているが、塩山−勝沼付近の断層は、「推定活断層」と記されており、変位地形の存在の確からしさに違いがある。
 曽根丘陵断層帯は、松田(1990)の基準にしたがえば、塩山−勝沼付近の断層の北方に位置する大菩薩嶺西側の断層から曽根丘陵断層群までが1つの起震断層を構成することになる。しかし、大菩薩嶺西側の断層は、活断層研究会編(1991)により活動度が低いこと(C級)が示されていることから、評価対象に含めなかった。
 なお、曽根丘陵断層帯の西方に位置する糸魚川−静岡構造線断層帯については別途評価を実施している(図1-2:地震調査研究推進本部地震調査委員会,1996)。

(2)断層面の位置・形状

 曽根丘陵断層帯は、曽根丘陵断層群及び一宮−八代付近の断層と塩山−勝沼付近の断層とではその一般走向に違いが見られるが、変位地形の存在の確からしさの違い及び曽根丘陵と御坂山地の形状から、前者が断層帯の主たる走向を示していると考えられる。このため、本断層帯の一般走向は、図2に示された曽根丘陵断層群及び一宮−八坂付近の断層の主要な方向であるN60°Eとした。長さについては、前述の走向方向(N60°E)に塩山−勝沼付近の断層の北端を投影させて計測して、約32kmとした。
 断層面上端の深さは、断層による変位が地表に達していることから0kmとした。
 断層面の傾斜は、後述するように、南東側が北西側に対して相対的に隆起する逆断層であることから、南東傾斜と考えられ、反射法弾性波探査結果(加藤ほか,投稿中)から、深さ1km程度以浅まで約30°と推定される(図3)。
 なお、1km以深については佐藤ほか(2006)が実施した地下構造調査により、本断層帯の断層面の延長線上の地下約10−20kmに南傾斜の反射面を認めている。

 断層面の下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると20km程度と推定される。しかし、地下深部の傾斜が明らかではないため、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)注9

 曽根丘陵断層帯は、ふくらみを伴って北西へ撓み下がる変位地形や、その背後に地形面の逆傾斜や逆向き低断層崖が生じていること(澤,1981;活断層研究会編,1991など)、また断層露頭(平川,1992;曽根丘陵研究グループ,1991;桂田ほか,1996など)や反射法弾性波探査結果(山梨県,2002,2003,2004;加藤ほか,投稿中など)に基づくと、断層の南東側が北西側に対して相対的に隆起する逆断層であると考えられる。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)

 曽根丘陵断層帯の北中部に位置する笛吹市甲斐国分寺付近で丸山・斉藤(2005)は、約1万年前に形成されたTL−I面に比高2−3mの北向きの低崖を認め、この比高を断層変位によるものと認定している。これに基づき計算すると、平均上下変位速度は0.2−0.3m/千年と求められる。ただし、この地点ではさらに東方にも断層が並走すると判断できることから、本断層帯の平均変位速度はこれを上回ると考えられる。
 本断層帯の中南部に位置する甲府市銚子塚では、地形面区分と現地での観察結果に基づき、この付近に広く分布する韮崎泥流堆積物を変位基準として平均上下変位速度の検討が行われている。澤(1981)は、この堆積物が断層隆起側では撓曲変形する1b面の標高340m付近に露出しているのに対し、沈降側の甲府盆地における既存ボーリング資料(海野,1981MS)でその上限面が標高170m付近に認められるとして、上下変位量を170mと見積もっている。韮崎泥流堆積物の直下には大町A1テフラ(A1Pm)(35−36万年前;町田・新井,2003)が存在することが平川(1996)により確認されており、これを韮崎泥流堆積物の堆積年代として計算すると、この地点における平均上下変位速度は、0.5m/千年と求められる。ただし、曽根丘陵の1b面の頂部付近では地表に露出して大きく浸食を受けている可能性があり、変位量の見積もりに不確かさがある。また、盆地下の韮崎泥流堆積物は深度100m(標高150m)程度との報告もあり(海野,1991)、断層を挟んだ韮崎泥流堆積物の比高は上記より大きくなる可能性もある。これらのことから、平均上下変位速度は0.5m/千年を上回る可能性がある。
 本断層帯の南西端に近い市川三郷町上野では、産業技術総合研究所(2006)により実施されたボーリング及び地形測量調査の結果、約1万1千年前以後に形成された扇状地面(TL−2面)に13mの上下変位が認められている。これより、本地点の平均上下変位速度を1.2m/千年以上としている(図4)。ただし、この地点では扇状地堆積面上面(扇状地面)以外に断層の変位量を推定する変位基準がないため、扇状地面の落差の見積りの妥当性や断層による変位の累積性にやや不確かさが残る。
 また、隈元・池田(1993)は、段丘面の変形と重力探査結果から曽根丘陵断層群の地下構造を推定し、モデルを仮定した場合、断層面に沿った平均変位速度を約1.3m/千年と見積もっている。

 以上の結果、いずれの資料においても不確かさがあることを考慮して、本断層帯の平均上下変位速度は概ね1m/千年の可能性があると判断した。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

・大塚地点(トレンチ調査)

 曽根丘陵断層帯の南西部に位置する西八代郡市川三郷町大塚で、撓曲崖の背後の逆向き低崖において、トレンチ掘削調査が行われた(産業技術総合研究所,2006)。トレンチ壁面には、数条の高角度の断層と地層の変形が認められた(図5)。
 トレンチ西壁面スケッチに基づくと、地表に見られる撓曲崖や断層活動に伴う小丘の成長と調和的な南東への傾動が9層−3層に認められ、これらを2層が傾斜不整合関係で覆っている。このことから、3層堆積後、2層堆積前に活動があったと推定される。2層からは年代値は得られていないが、3層(腐植質シルト)上部からは約1万年前を示す14C年代値(注10)が得られている(産業技術総合研究所,2006)。
 したがって、本地点においては約1万年前以後に活動があったと推定される。
 なお、産業技術総合研究所(2006)は、4層堆積後−3層堆積前、7層堆積後−6層堆積中、8層堆積後−7層堆積前にそれぞれ活動があった可能性を指摘している。ただし、これらの調査結果は、副次的な断層から得られたものであり、主断層のすべての活動を反映しているとは限らないと判断し、評価の対象としないこととした。

 この他、産業技術総合研究所(2006)は、甲府市上曽根及び中央市高部において、北西上がりの撓曲崖状の低崖を横断するトレンチ調査を実施したが、明瞭な断層変位や変形は認められなかった。しかし、断層はトレンチ外を通過している可能性もあることから、両地点の調査結果から活動時期を特定することはできない。

b)先史時代・歴史時代の活動

 宇佐美(2003)では、1908年に曽根丘陵断層帯の周辺の笛吹市御坂町付近でマグニチュード5.8程度の地震が発生し、「甲府市付近に障壁の亀裂・石碑の倒伏などの微小被害」があったと報告されているが、本断層帯との関係は不明である。

 以上から、本断層帯では約1万年前以後に活動があったと推定される。ただし、活動回数や活動時期をこれ以上特定することはできない。

(3)1回の変位量(ずれの量)

 曽根丘陵断層帯では、1回の活動に伴う変位量を示す直接的な資料は得られていない。
 しかし、本断層帯の長さが約32kmであることから、経験式(1)及び(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は2.5mと計算される。したがって、本断層帯の1回の活動に伴う上下変位量は2−3m程度であった可能性がある。
 用いた経験式は松田(1975)による次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

            Log L=0.6M−2.9   (1)
            Log D=0.6M−4.0   (2)

(4)活動間隔

 曽根丘陵断層帯の活動間隔に関する直接的資料は得られていない。ただし、平均上下変位速度(概ね1m/千年)と前述により算出された1回の変位量(2−3m:計算値2.5m)から平均活動間隔を算出すると2千−3千年と求められる。
 このことから、本断層帯の平均活動間隔は概ね2千−3千年であった可能性がある。

(5)活動区間

 曽根丘陵断層帯は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の起震断層の定義に基づくと、全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

 曽根丘陵断層帯周辺における2006年4月までの8年間のGPS観測結果では、顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

 曽根丘陵断層帯周辺の最近約10年間の地震観測結果によると、断層帯周辺で微小な地震活動があり、地震発生層の下限の深さは20km程度と推定される。

2.3 断層帯の将来の活動

(1)活動区間及び活動時の地震の規模

 曽根丘陵断層帯は全体が1つの活動区間として同時に活動すると推定される。この場合、長さが約32kmあることから、前述の経験式(1)を用いて地震の規模を求めると、マグニチュード7.3程度の可能性がある。このような地震が発生した場合、前述の経験式(2)を用いて1回の変位量を求めると、断層近傍の地表面では断層の南東側が北西側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

 曽根丘陵断層帯では、平均活動間隔が概ね2千−3千年と求められている。しかし、活動時期が約1万年前以後と十分に絞り込まれていないため、上述のような規模の地震が発生する確率を更新過程(地震の発生確率が時間と共に変動するモデル)を用いて評価することはできない。
 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、地震の発生確率を求めるにあたって、通常の活断層評価で用いている更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしている。本断層帯における平均活動間隔が概ね2千−3千年であることを基に、ポアソン過程を適用して求めると、今後30年以内、50年以内、100年以内及び300年以内の発生確率は、それぞれ1%、2%、3−5%及び10%となる。(表2)
 信頼度の低い平均活動間隔を用いた計算結果であることに十分留意する必要があるが、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する確率が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。(注1−3) 。

3.今後に向けて

 曽根丘陵断層帯では、副次的な断層以外で活動時期に関する資料が得られていない。したがって、最新活動時期を含む過去の活動について精度の良い資料を集積させる必要がある。
 また、曽根丘陵断層帯の西方に位置する糸魚川−静岡構造線断層帯の活動との関連性についても検討する必要がある。

注9: 「変位」を、1ページの本文、4ページの表1、では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注10: 炭素同位体年代については、Ramsey(1995,2001)、Reimer et al.(2004)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。


文 献

花井重次(1934):甲府盆地南縁の地形とその成因に就いて.大塚地理学会論文集,第二集,下113−123.

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付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。
  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。
平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。
平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。
平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。