平成16年3月10日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


上町断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、48断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、上町断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成16年3月10日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

上町断層帯の評価

上町(うえまち)断層帯は、大阪平野に位置する活断層帯である。ここでは、平成7−9年度及び平成12−15年度に産業技術総合研究所(旧:地質調査所)によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形状

上町断層帯は、大阪府豊中市から大阪市を経て岸和田市に至る断層帯である。全体として長さは約42kmで、ほぼ南北方向に延びており、断層帯の東側が西側に乗り上げる逆断層である(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

上町断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は、約0.4m/千年であったと推定される。最新活動時期は、約2万8千年前以後、約9千年前以前であった可能性があり、平均活動間隔は8千年程度であった可能性がある。

3.断層帯の将来の活動

上町断層帯では、断層帯全体が一つの区間として活動した場合、マグニチュード7.5程度の地震が発生すると推定される。また、その時、断層近傍の地表面では東側が西側に対して相対的に3m程度高まる段差や撓みが生ずる可能性がある(表1)。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は、表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。

4.今後に向けて

上町断層帯では、過去の活動履歴に関して精度の良い値が求められていない。特に、最新活動時期と平均活動間隔が共に絞り込めていないため、地震発生確率の信頼性が低い。
本断層帯は防災上重要な位置にあるため、過去の活動履歴について信頼度の高いデータを得ることが急務である。

表1 上町断層帯の特性


表2 上町断層帯の将来の地震発生確率


注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
  98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
  98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
 (いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率 (うち、1995年兵庫県南部地震と1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。
「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が8千年の場合は30年確率の最大値は約3%である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
    文献1:藤田・笠間(1982)
    文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
    文献3:活断層研究会編(1991)
    文献4:三浦ほか(2002)
    文献5:中川(1991)
    文献6:中川ほか(1993)
    文献7:中田ほか(1996a)
    文献8:中田ほか(1996b)
    文献9:中田ほか(1996c)
    文献10:中田ほか(1996d)
    文献11:中田・今泉編(2002)
    文献12:岡田・東郷編(1999)
    文献13:岡田ほか(1996)
    文献14:大阪市(1996)
    文献15:大阪府(1997)
    文献16:大阪府(1998)
    文献17:大阪府(1999)
    文献18:杉山(1997)
    文献19:杉山・寒川(1996)
    文献20:杉山ほか(2001)
    文献21:杉山ほか(2003)
    文献22:戸田ほか(1992)
    文献23:山本ほか(1992)
    文献24:吉川ほか(1987)
注5: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字のうち1.1は9000年を8000年で割った値である。
注8: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。

(説明)

1.上町(うえまち)断層帯に関するこれまでの主な調査研究

本断層帯のうち、上町断層は上町台地の西縁に沿う形でほぼ南北方向に伸びており、Ikebe et al.(1970)のボーリングコア観察などにより、地層の撓みや食い違いがあることが以前から知られていた。上町断層は、都市部に位置しておりかつ伏在部分が多いことから、反射法弾性波探査等を中心とする調査が行われてきた(吉川ほか, 1987、山本ほか, 1992、杉山・寒川, 1996、大阪市, 1996、杉山, 1997、杉山ほか, 2001など)。
また、上町断層に連続する形でその南側に位置する坂本断層及び久米田池(くめだいけ)断層については、大阪府(1997, 1998, 1999)が上町断層との連続性を認め、一連の断層となっていることを示唆している。本断層帯の北端にある佛念寺山(ぶつねんじやま)断層については、藤田・笠間(1982)が地質図に示したほか、上町断層から続く撓曲構造が、佛念寺山断層の南部に至っていることが杉山(1997)などにより確認されており、北部でも連続することが推定された(大阪府,1997)。
本断層帯付近の活断層の位置は、活断層研究会編(1991)、岡田ほか(1996)、中田ほか(1996a,b,c,d)、杉山(1997)、岡田・東郷編(2000)などに示されている。

2.上町断層帯の評価結果

2.1上町断層帯の位置・形状

(1) 上町断層帯を構成する断層

上町断層帯は、大阪平野の西部を、大阪府豊中市から大阪市を経て岸和田市に至る断層帯である(図1、2)。本断層帯の位置を示した岡田ほか(1996)及び中田ほか(1996a,b,c,d)の「1:25,000都市圏活断層図」、杉山(1997)、岡田・東郷編(2000)などは概ねよい一致を示す。
上町断層帯は、上町断層、長居断層、坂本断層、久米田池断層、佛念寺山断層により構成される。松田(1990)の基準にしたがえば、これらは一つの起震断層を構成しているとみなされる。
上町断層は、大阪府吹田市から大阪市を縦断し堺市まで、伏在部分を伴いながら概ね南北方向に延びている。上町断層の西側には、北東−南西走向で長さ約5kmの桜川撓曲(汐見橋撓曲)と長さ約5kmの住之江撓曲が付随している。
なお、本断層帯北端の佛念寺山断層は地形的に不明瞭であり、中田ほか(1996a)、岡田・東郷編(2000)などによれば、第四紀後期の活動が不活発である可能性もある。
このほか、池田ほか編(2002)は泉佐野付近にも断層が存在するとしているが、変位基準が示されていないことから、評価の対象にはしないこととした。
本断層帯を構成する各断層の位置及び名称は、中田・今泉編(2002)をベースとし、一部に中田ほか(1996a,c,d)及び大阪府(1999)のデータを加えたものとした。

(2)断層面の位置、形状

本断層帯全体の長さ及び一般走向は、断層帯の北端と南端を直線で結んで約42km、N10°Eとなる。
地下の断層面の位置及び形状は、地表における断層帯の位置及び形状と地下の地質構造等から推定した。
断層面上端の深さは、撓曲による変位がほぼ地表に達していること及び断層帯南部の坂本断層及び久米田池断層ではトレンチに断層が認められたことから0kmとした。
断層面の傾斜については、吉川ほか(1987)、山本ほか(1992)、杉山・寒川(1996)、大阪市(1996)、杉山(1997)、杉山ほか(2001)などによる反射法弾性波探査の結果から、少なくとも地下1km程度よりも浅いところでは、65−70°程度(東傾斜)となっている(図3、図4)。なお、大阪府(1998)によれば、坂本断層が40°程度で東傾斜している探査結果が認められているが、この探査は断層帯の末端付近で行われていること、また、断層が反射法探査測線の東端近くに位置しているため浅部しか確認できていないことから、ここでは採用しない。
また、断層面の幅については、地震発生層の下限である15km程度が断層面下端の深さと推定されることから、断層面の傾斜が地下1km以深も同様であると仮定して大まかに約15−20kmと推定した。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注9)

2.1.(2)で述べたように上町断層帯は東傾斜の断層帯である。また、杉山ほか(1997)等に示された地質構造、変位地形や反射法弾性波探査結果からみて、断層の東側が西側に対して相対的に隆起しており、断層線に向かって東側から地層が撓み下がることから、東側が西側に乗り上げる逆断層と考えられる(図3、図4)。

2.2上町断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注9)

大阪府(1999)は、断層帯全体にわたって、大阪層群を構成する地層の上下変位量を求め、0.06−0.40m/千年の平均上下変位速度を得た。調査を実施した5カ所のうち4カ所までは、断層帯の末端であったり、上下変位量が得られた地層が60万年前以前のものに限定されたりするが、上町台地付近でMa6層(約60万年前)からMa12層(約15万年前)までの累積変位量から得られた0.40m/千年は一定の信頼性があるものと認められる。
内山ほか(2001)は、ボーリングにより得られたデータを対比して、約120万年前から約60万年前までの平均上下変位速度として0.3m/千年の値を得たが、それより最近の年代における値は求めていない。
岡田・東郷編(2000)は、上町断層帯南部の長居公園通りから北信太(きたしのだ)にかけての数地点にわたって低位段丘面(約2万8千年前、後述)に形成された撓曲崖の上下変位を測定し、2.2−4.6mの値を得た。また、大阪府(1999)は、堺市中百舌鳥(なかもず)付近において4カ所で低位段丘面の上下変位量を求め、2.2−6.0mの値を得たとしている。これらの変位量のうち、数条の断層が並走している地域や上下変位を観測した点間距離が短いもの等の値を除外すると、概ね0.25m/千年程度の平均上下変位速度が得られる。しかしながら、後述するように本断層帯の1回の変位量は3m程度である可能性があることから、低位段丘面上は少数回の断層活動しか記録していない可能性が高いと考えられるため、平均上下変位速度としての信頼性は低い。
このほか、大阪府(1999)は、久米田池断層で行ったボーリング(岸和田市岡山地点)から、約70万年前及び約85万年前の地層にそれぞれ約190m、約210mの上下変位を検出したとしている。これからこの地点における平均変位速度は0.25m/千年程度となるが、この地点は断層帯の南端に近いため、変位量としては断層帯中央部よりもやや低い値が得られる傾向にあることを考慮する必要がある。
以上のことから、本断層帯の平均変位速度は、約0.4m/千年であったと推定される。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

三浦ほか(2002)及び杉山ほか(2003)は、大阪市淀川区西中島の新淀川北岸で群列ボーリングを行い、各種の物性値や花粉・微化石分析等に基づいたコア対比を行った。さらに杉山ほか(2003)では、同地点で実施された反射法弾性波探査結果(杉山ほか,2001)の再解釈を実施した。その結果、約9千年前の対比基準面が、すべてのコアを通じてほぼ水平に追跡されると共に、同層準付近で複数の対比基準面の高度差が最も小さくなっていること、そして、その上位では、より上位の対比基準面ほど西への傾斜が大きくなるものの、それらは堆積性の構造と考えられることから、上町断層の最新活動時期を約9千年前以前と推定した(図5、図6)。
また、前述のように、低位段丘面に撓曲が各所で見られることから、最新活動時期は少なくとも低位段丘面の形成以後であった可能性がある。これらの段丘面に対比される各段丘面の構成層からは、姶良−Tn火山灰が検出されている(大阪府,1999など)。よって、断層の最新活動時期は約2万8千年前(注10)以後であると推定される。
なお、坂本断層の和泉市阪本地点(大阪府, 1998)及び久米田池断層の岸和田市尾生地点(大阪府, 1999)においてトレンチ調査が行われたが、いずれも傾斜する大阪層群を不整合で覆う堆積物には断層による変形が認められず、断層帯の最新活動を特定するには至っていない。また、七山ほか(2001)は、住之江撓曲(大和川南岸地点)において実施した反射法弾性波探査及びボーリング調査の結果から、難波累層中−下部にはほぼ水平な反射面が卓越し、撓曲による変形は認め難いとし、難波累層下部の堆積(約1万5千年前)以前に最新活動があったとした。しかしながら、難波累層下部は海退期に形成された礫層で、反射面に見られる水平な構造が地層の層理面を示しているとは言い切れず、最新活動時期が難波累層下部の堆積以前であったことは確実とはいえない。

b)先史時代・歴史時代の活動

この地域では、887年(仁和3年)の仁和地震以後、10を越える被害地震の記録があるが、いずれも本断層帯との関係は不明である。なお、1596年(慶長元年)の慶長伏見地震以後、この地域では被害地震の報告はない。

以上の結果を総合すると、この断層帯の最新活動時期は約2万8千年前以後、約9千年前以前であった可能性があるものの、これ以上絞り込むことはできない。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注9)

前述のように、岡田・東郷編(2000)は、上町断層帯南部の長居公園通りから北信太にかけての数地点にわたって、低位段丘面に認められる撓曲崖の上下変位を測定し、変位量として2.2−4.6mを得ている。また、大阪府(1999)は、堺市中百舌鳥付近において、4カ所で低位段丘面の上下変位量を求め、2.2−6.0mの値を得ている。ただし、低位段丘面形成後に断層が何回活動したかは明確ではないため、これらの値から本断層帯の1回の変位量を推定することは困難である。
一方、経験式 (1)、(2) によれば、本断層帯の1回の上下変位量は、断層帯の長さ(約42km)から3.3mと計算できる。
以上のことから、本断層帯の1回の上下変位量は、3m程度であった可能性がある。
用いた経験式は、松田(1975)による次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはその時のマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      LogL = 0.6M−2.9      (1)
      LogD = 0.6M−4.0      (2)

(4)活動間隔

上町断層帯では、平均活動間隔に関する直接的な資料は得られていないが、平均的なずれの速度である約0.4m/千年及び断層帯の長さ(約42km)から経験式を用いて求めた1回の活動に伴う変位量(3.3m)から計算すれば、平均活動間隔は8千年程度であった可能性がある。

(5)活動区間

本断層帯では、断層がほぼ連続的に分布することから、全体が一つの区間として活動した可能性がある。なお、桜川撓曲が上町断層に接する部分で活動区間を分ける考え方もあるが、明確な証拠に欠けることから、ここでは考慮しないこととした。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、ほぼ東西方向の縮みが見られる。また、1985年からの約10年間では、断層帯周辺で北西−南東方向の縮みが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

1997年以降の地震観測結果によれば、上町断層帯周辺には小規模な地震活動が見られる。地震の線状配列は特に見られず、地震発生層の下限の深さは約15kmである。

2.3上町断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

上町断層帯は、断層帯全体(長さ42km)が一つの活動区間として活動する可能性がある。
本断層帯が活動した場合、経験式(1),(2)からマグニチュード7.5程度の地震が発生すると推定され、その際には断層帯の東側が西側に対して3m程度高まる段差や撓みを生ずる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯では、過去の活動に基づく平均活動間隔が8千年程度、最新活動時期が約2万8千年前以後、約9千年前以前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、1.1−2より大となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ2%−3%、3%−5%、6%−10%、20%−30%となる。また、現在までの集積確率は70%−90%より大となる(表2)。
最新活動時期が十分絞り込まれていないため、本評価で得られた将来の地震発生確率には幅があるが、もっとも高い値に着目すると、本断層帯は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。

3.今後に向けて

上町断層帯では、過去の活動履歴に関して精度の良い値が求められていない。特に最新活動時期と平均活動間隔が共に絞り込めていないため、地震発生確率の信頼性が低い。本断層帯は防災上重要な位置にあるため、過去の活動履歴について信頼度の高いデータを得ることが急務である。

注9: 「変位」を、1ページの本文及び4−5ページの表1では、一般的にわかりやすいように、「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓みの成分」よりなる。
注10: 姶良−Tn(AT)火山灰層の降下年代値は、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。

文 献

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池田安隆・今泉俊文・東郷正美・平川一臣・宮内崇裕・佐藤比呂志編(2002):『第四紀逆断層アトラス』.東京大学出版会,253p.

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地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.

活断層研究会編(1980):『日本の活断層−分布図と資料』.東京大学出版会,363p.

活断層研究会編(1991):『新編日本の活断層−分布図と資料』.東京大学出版会,437p.

関西地盤情報活用協議会(1998):『関西地層分布図−大阪平野−』.31p.

小池一之・町田 洋編(2001):『日本の海成段丘アトラス』.東京大学出版会,CD−ROM3枚・122p.+付図2葉.

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中田 高・岡田篤正・鈴木康弘・渡辺満久・池田安隆(1996c):1:25,000都市圏活断層図「大阪西北部」.国土地理院技術資料,D.1−No.333.

中田 高・岡田篤正・鈴木康弘・渡辺満久・池田安隆(1996d):1:25,000都市圏活断層図「大阪西南部」.国土地理院技術資料,D.1−No.333.

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七山 太・土井康裕・北田奈緒子・竹村恵二・杉山雄一(2001):大阪平野西部、上町断層住之江撓曲の活動度評価とこれに基づく過去1万年間の海水準変動.地質学雑誌,107,215−221.

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大阪府(1998):『平成9年度地震関係基礎調査交付金 上町断層帯に関する調査成果報告書』.大阪府,1−30・2−1・3−48・4−42.

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杉山雄一(1997):上町断層系の反射法弾性波探査.地質調査所研究資料集,No.303(平成8年度活断層研究調査概要報告書),105−113.

杉山雄一・寒川 旭(1996):大阪平野南部,大和川における上町断層南方延長部の反射法弾性波探査.地質調査所速報,no.EQ/96/1, 57−62.

杉山雄一・下川浩一・粟田泰夫・佐竹健治・水野清秀・吉岡敏和・小松原 琢・七山 太・苅谷愛彦・吾妻 崇・伏島祐一郎・佃 栄吉・寒川 旭・須貝俊彦(1999):近畿三角地帯における主要活断層の調査結果と地震危険度.地質調査所速報(平成10年度活断層・古地震研究調査概要報告書),no.EQ/99/3,285−309.

杉山雄一・七山 太・北田奈緒子・横田 裕(2001):大阪市内における上町断層のS波反射法地震探査.活断層・古地震研究報告,No1,143−151,産業技術総合研究所地質調査総合センター.

杉山雄一・七山 太・三浦健一郎・吉川 猛・横田 裕・末広匡基・古屋正和・栃本泰浩・廣瀬孝太郎・横山芳春・北田奈緒子・竹村恵二(2003):上町断層系の補足調査(その2)−新淀川北岸における追加ボーリングとS波反射法地震探査データの再解釈に基づく上町断層帯の活動性評価−.活断層・古地震研究報告,産業技術総合研究所地質調査総合センター,No.3,117−144.

戸田 茂・中川康一・三田村宗樹・西田智彦・山本栄作・寺田祐司・宇田英雄・横田 裕(1992):大阪平野中央部における反射法地震探査U−大和川(遠里小野〜矢田)測線−.日本応用地質学会平成4年度研究発表会講演論文集,189−192.

内山美恵子・三田村宗樹・吉川周作(2001):大阪平野中央部、上町断層の変位速度と基盤ブロックの運動.地質学雑誌,107,228−236.

山本栄作・中川康一・三田村宗樹・戸田 茂・西田智彦・寺田祐司・宇田英雄・横田裕(1992):大阪平野中央部における反射法地震探査T−淀川(十三〜柴島)測線−.日本応用地質学会平成4年度研究発表会講演論文集,185−188.

吉川宗治・町田義之・寺本光雄・横田 裕・長尾英孝・梶原正章(1987):大阪市内における反射法地震探査.物理探査学会77回学術講演会講演論文集,114−117.

表3 上町断層帯の将来の地震発生確率及び参考指標

注11: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。ポアソン過程を適用した場合の危険率は、8千分の1(0.0001)程度であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率からは、既に3千4百年から2万2千年を経過していることになる。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) :BPT分布モデルを適用した場合と、ポアソン過程を適用した場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率の値をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。